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【インド市場の特性と文化的理解で拓く新たな可能性】第3回 インドの教育の進化 アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ

2024年11月19日 (火)

インドの教育の進化

 インドの教育は、深い歴史と大きな変革に彩られ、豊かな知的伝統と進化する教育手法が織り交ぜられた文化を映し出しています。古代のグルクル制度からイギリスの影響を受けた現代の教育機関に至るまで、インドの教育の歩みは伝統、植民地時代の影響、そして世界的な専門職人材の育成に向けた飛躍の物語です。

古代インドの教育

 古代インドにおいて、教育は単なる知識習得の手段ではなく、自己成長と精神的発展への道とされていました。最も古い教育形態であるグルクル制度では、生徒は小さな田舎の学校で師(グル)と共に暮らし、宗教書、哲学、数学から弓術や戦術まで、カーストや地域のニーズに応じた多様な科目を学びました。この制度は、規律や道徳教育、そして自己と社会に対する義務を重視し、宗教的・文化的・経済的にバランスの取れた社会を形成しました。その結果、古代インドは人間の価値観が豊かで、貧困がほとんど見られない豊かな国でした。

宗教・地域機関の影響

 グルクル以外にも、インドにはタクシャシラ(タキシラ)やナーランダといった、世界最古の大学がありました。これらの機関には世界中から学者が集まり、医学、数学、天文学、論理学などの高度な学問が提供されていました。教育は厳格かつ体系的で、学者たちは他の大陸へと知識を広め、世界の学問に貢献しました。

アーユルヴェーダ:インド古来の医療科学

 アーユルヴェーダは、5,000年以上の歴史を持つインドの古代医療で「生命の科学」と呼ばれています。アーユルヴェーダは、体、心、精神の調和を強調し、個別化された治療と自然療法によってバランスを整えることを目的としています。この医療体系の中心には、ヴァータ、ピッタ、カファという3つのドーシャがあり、それぞれが健康や傾向に影響を与える要素の組み合わせを表しています。ドーシャの不均衡は病気を引き起こす原因とされ、アーユルヴェーダの治療は生活習慣や自然薬を用いてバランスを取り戻すことを目指しています。

 アーユルヴェーダの治療法には、ターメリックやアシュワガンダのようなハーブ療法、個別化された食事療法、デトックスを行うパンチャカルマなどがあります。ヨガや瞑想も心の明晰さと情緒の安定を支える重要な実践です。世界保健機関(WHO)にも認められているアーユルヴェーダは、予防的で持続可能な健康法を求める人々に支持され、現在でもその古代の知恵が世界中で健康とバランスを促進しています。

イギリス植民地時代の影響

 イギリスの植民地支配の時代、インドには新しい教育制度が導入され、これは主にインド人でありながらイギリス人の思想や道徳を持つ人材を育成することを目的としていました。この制度により英語が教育の主な言語となり、西洋のカリキュラムが導入されました。イギリスは幾つかの大学やカレッジを設立し、インドにおける高等教育の基礎を築きました。この変化は教育の媒体を変えるだけでなく、植民地政府の行政上のニーズを満たすための官僚的な構造も導入され、インド教育の形を一変させました。この教育はインドの教育システムに高い国際的な品質基準をもたらしました。その結果、インドの競争力のある知識と知的レベルにおいて、能力を向上させ、価値を追加しました。

独立後の発展

 独立後、インドは広大で多様な人口の教育という巨大な課題に直面しました。政府は識字率の向上、英語と並行して地域言語の推進、高等教育の拡充に力を注ぎました。インド工科大学(IIT)などの技術系や工学系の大学が設立され、現代インド国家を支える科学者や技術者の育成が促進されました。これにより、イノベーターや思想家の世代が育まれました。さらに、インドの政府資金提供の大学の授業料は非常に低いか、ほぼ無料です。しかし、入学試験が非常に厳しいため、入学は非常に競争が激しいです。優秀な学生のみがメリットに基づいて入学することができます。この教育は、インドの教育システムを高い国際的な品質基準に引き上げました。その結果、競争力のある知識と知的レベルの面でインドの能力を強化しました。また、性別、カースト、経済状況に関係なく、メリットを優先し、平等な機会を提供します。

グローバル化の影響

 1990年代初頭の経済自由化によって、インドはさらにグローバル経済に統合され、国際基準に合った教育制度が求められるようになりました。医学、情報技術、経営学などの分野が重視され、経済成長に不可欠な分野でスキルを備えた人材を育成することに焦点が移りました。その結果、インドの専門家たちは、特にSTEMとIT分野で世界的な貢献を果たすようになりました。

技術者育成のハブとしてのインド

 インドの教育改革は、同国がスキルを持つ人材を輩出する世界最大の供給源の1つになることを可能にしました。数百万人のインド人専門職が、医師、エンジニア、科学者、ITスペシャリストとして世界で活躍しています。特に技術と専門分野におけるインドの教育の厳格さと幅広さが、インドをスキル人材の世界的なリーダーとして位置付ける要因となっています。

ゼロの概念

 古代インドが世界の科学と教育に与えた最も重要な貢献の1つは、古典期に発展したゼロの概念です。この数学的発見は算術に革命をもたらし、数学の理解における新たな基盤を築きました。

結論

 グルクル制度の古代哲学から現代インドのハイテク教室に至るまで、インドの教育制度は社会的、経済的、政治的変化に形作られて大きく進化してきました。今日のインド教育は、国の復元力と適応力を示し、豊かな伝統と進歩的な志向の融合を反映しています。インドの教育制度は、優れた知的資源を世界に提供し続け、学術的卓越性と知的貢献の伝統を守り続けています。

プロフィール

アイ・ティ・イー株式会社
CEO パンカジ・ガルグ

アイ・ティ・イーCEO パンカジ・ガルグ氏

国立工科大学でコンピューターサイエンス工学を専攻し、米国フォックスビジネススクールにてMBAを取得。34年前に日本に移住以降、AIやロボティクス、半導体等の分野を専門として神戸製鋼所、安川電機、インテル、NASA/カリフォルニア工科大学のスタートアップなどで活躍。専門分野はR&D、エンジニアリング、製品製造、そしてグローバル規模の技術営業およびマーケティングなど多岐にわたり、半導体、グリーンエネルギー、次世代エネルギーに関する30以上の特許を保有しています。

気候変動やフードロス、医薬品のコールドチェーン不足などのグローバルな課題に取り組む使命に駆られ、シームレスでグローバルスタンダードとなる低温物流システムを開発することを目指し、インテルを退社後、2007年にアイ・ティ・イー株式会社(ITE)を完全自己資金で設立しました。

現在、ITEは国内外250社以上のクライアントにサービスを提供し、インド市場でも成長を続けています。日本の技術革新と“ものづくり”の品質へのこだわりに触発され、ビジネスの卓越性、誠実さ、継続的改善の文化を育んできました。指導原則は、バガヴァット・ギーターに示されたカルマの教えや改善(カイゼン)に基づき、特にアメリカでの豊富なグローバルビジネス経験から形成された、ITEの顧客第一の哲学を形作っています。

また、DX、半導体、医療用コールドチェーン、製薬、GDP/GMP基準、ライフサイエンス、アーユルヴェーダ、ヨガ、食品産業に関する深い知識を持っています。この多様な知識は、彼が複数の分野で成功する上で重要な役割を果たし、コールドチェーン物流、気候変動対策、グリーンエネルギー分野におけるビジョナリーリーダーとしての地位を確立しています。

アイ・ティ・イー株式会社

https://icebattery.jp/ja/

2007年創業以降、国内外250以上の企業に、独自の「IceBattery(R)システム」という低温物流全体のプラットホーム、及びDXソリューションを提供している温度管理専門企業。IceBattery(R)製品はすべて自社で設計・開発されており、IceBattery(R)システムは4Lボックスから40FTの大型コンテナ/トラックまで、すべての輸送手段における庫内温度を均一に長時間維持することができる画期的な保冷システムである。

コラムへの想い

私は35年以上日本に住んでおり、インドの価値観を保ちながら、個人としてこの国の一部になりたいと常に考えてきました。私の家族はビジネスに関わる家庭で、祖父の兄が1959年に在日インド大使館の副大使を務めるなど、世界中に親戚や友人がいます。この経験から、私は国、文化、人々を少し違った視点で見るようになりました。日本とインドは歴史、文化、宗教に深く根ざした強い絆を持ち、互いに補完し合う関係にあります。第二次世界大戦中の日本のインド支援や、両国間の精神的つながりはその証です。

私は、このシナジーを活かし、インドのグローバルリーダーシップと日本のビジネス、製造、運営の卓越性を結びつける強力なパートナーシップを築くことを信じています。共に、仏教とカルマの真髄を体現し、世界を一つの家族として平和と繁栄、知恵をもたらす未来を切り開けると確信しています。

目次



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