日本薬学生連盟広報部は今回、特別編として報道番組「クローズアップ現代」を担当しているNHKアナウンサーの桑子真帆さんにお話を伺いました。薬剤師もアナウンサーと同じように人と向き合うことが求められる職業で、「聞くこと」は必要な資質の一つです。庄司春菜(東京薬科大学薬学部4年生)、佐藤匠真(日本薬科大学薬学部5年生)が聞き手となり、日々番組で迎えている様々なゲストとどのように向き合い、話を聞いているのか、桑子さんに語っていただきました(執筆:佐藤匠真)
緊張感や威圧感与えず
――最初に薬剤師に対する印象を教えてください。
基本的に病院には何か問題を抱えて行くわけですが、医師の診察を終えて最後に薬を受け取るときに薬剤師の方と向き合います。ガラスの向こう側で薬を選別されているのだと思いますけど、そんな大変な中で私にも向き合わないといけないし、忙しそうな仕事だと思います。
しかも、頭の中に薬の知識が入っていなければいけませんし、絶対に間違えられない中、プレッシャーのかかる仕事で大変そうという印象です。
――私たちは将来、薬剤師として様々な患者さんに向き合うことが求められますが、人と向き合うプロであるアナウンサーの桑子さんから、その姿勢を学びたいです。インタビューの時に意識していることを教えてください。
基本的に自分のキャラクターを変えることは意識していません。いつも放送の前にゲストの方と打ち合わせをしますが、いろいろな方が来られます。とても元気な方もいれば、緊張されている方もいます。その方に対し、モードA、B、Cの中から今日はBだなということを考えたことはなくて、自然体で向き合うことを大切にしています。
テレビに出ることに緊張されている方は多いので、こちらから緊張感や威圧感を与えないように意識しています。ゲストの方は、自分の伝えたい思いをたくさん持ってこの場に来ているわけです。時間の限られた生放送の中で、伝えたい思いを精一杯出していただくために緊張をほぐせたらいいなと思っています。
私は今日あなたの思いを聞きたいです、という気持ちを持つことが大事です。今日の生放送の時間はあなたとの時間なので安心して思いを全部出してください、という気持ちでいますし、直接そう伝えることもあります。
相手の気持ちを想像し質問‐選択肢示すと答えやすく
――相手の嬉しそうな表情や悲しそうな表情など、相手に合わせて自分の表情も変えるなどの工夫はされていますか。
表情を作り込むことは意識していません。シリアスなテーマで苦しいことを伝えなければならないゲストの方は当然、明るい感じの口調にはなりませんので、自分なりに相手の気持ちを想像して接していると、自分も自然とそういうモードになります。私の場合は、表情を作ることに意識を向けるというより、全身全霊で相手に対して意識を向けた方がうまくいくのかなと思っています。
――相手が話しづらいことを口にしたとき、どう反応されますか。
そもそも話しにくいことを口にしていただくときは、こちらも言葉を選ぶし慎重になります。私が今からあなたに話しづらいことを聞きますという気持ちを持つと、威圧的な態度には絶対になりません。
「答えられる範囲でいいんですけれど」とか「答えたくなかったらいいんですけど」などの前置きをつけて聞くと、相手も無理しなくていいんだ、この人は答えづらいことを話そうとしている自分のことを分かってくれているんだと理解してくれると思います。あえて、「ここから厳しい質問をしますけれども」と言うこともあります。
例えば、2025年に放送した番組では、ちゃんみなさんをゲストに迎えました。ちゃんみなさんは、多くの若者たちの心を救ってきたカリスマ的存在ですが、彼女自身、様々な心の傷を負いながら幼少期から若い頃を過ごしてきました。その頃のことは、まだ話したくないことかもしれないけれども、私は苦しくてもインタビュアーとして聞き出さなければいけませんでした。「今はキラキラしてかっこいい感じのちゃんみなさんも同じように苦しみを経験してきたんだ、私も頑張ろう」など、視聴者が共感してくれるかもしれないからです。
私は、ちゃんみなさんに「今、強く見えるけれども、経験した苦しい時間ってどういうものだったのか、答えられる範囲でいいんですけど、教えていただけますか」と質問しました。
歌詞にもなっている彼女のルーツに関わる心の傷について「その傷つけてきた人たちを今なら許せますか?愛せますか?」という質問をした時にも、「ちょっと厳しい質問かもしれないけれど」という前置きを付け加えました。相手の話しづらい気持ちを想像すると、それが自然と自分の声のトーンや表情にも出てくると思います。声のトーンを落とすことや表情を作ることに意識を向けるのではなく、相手の気持ちに近づきたいと思いながら話すことを心がけています。
――なかなか言葉が出ない方に対し、あえて質問しないことはありますか。相手が自ら話し出すのを待つ沈黙の使い方を聞きたいです。
インタビュアーとして沈黙はすごく怖くて、間を埋めようとしてしまうときもあります。ただ、それまでのやり取りの中で、この人は言葉が出るまでにちょっと時間がかかるタイプなのか、すぐ反応するタイプなのかが分かりますので、ちょっと待てば、もしかしたら言葉が出るかもしれないと思ったらぐっとこらえて待ちます。
相手が何を言えばいいか分からない状態で沈黙する場合もあります。それに備えて聞く側も、答えの選択肢をいくつか用意しておくと良いと思っています。
例えば「これはこうですか?それともこうですか?」などとA、B、Cのようにきっかけを提示すると、相手が「Bに近いけれど、こうです」とか「AでもBでもCでもなくてDです」というように話しやすくなります。
そのためには、この質問に対してどういう答えがあり得るだろうかという事前の勉強や想像力も必要になります。事前の準備によって、この人は全く分かっていない人ではないということが相手に伝わりますし、いろんな可能性や答えのきっかけになるかもしれませんので、答えの選択肢の用意は私自身もやることがあります。
自分の意見持てるまで勉強‐本番で準備捨てるケースも
――桑子さんが大切にされている「準備」とは何ですか。準備したものを捨てる場面もありますか。
私の場合、毎日様々なテーマを扱います。何年、何十年もそのテーマに向き合っている方に比べて、たかが数週間、数カ月勉強した私が完璧に分かりきることはできないですが、私なりにできる準備はもちろんします。
完璧に分かりきることは無理だということを前提に、自分だったら今回のテーマにどんな意見を持つか、番組の最後にどんな言葉を発するかが見えてくるまでは、いろんな資料を読み込んだり、いろんな人に聞いたりします。テーマに対する自分のものの見方に、自分なりに句点を打つといいますか、そこまで行けたらよしとします。取材した人たちと意見交換できるようになるまで準備すると、自分の中で決めています。
その上で、準備したものを捨て、相手と向き合う本番の時間も大事にしています。例を挙げると26年4月には、日本のがん検診の受診率が低いというテーマを放送しました。制作陣との間では、がんは検診を受けないと発見できないから、とにかくがん検診を視聴者に受けてほしい、最後にがん検診を受けましょうと呼びかけることにしていました。
しかし、ゲストの方が打ち合わせで繰り返し語っていたのは、日本のがん検診は、職場の健康診断で受けたり、自治体の住民検診で受けたり、自分で人間ドックに申し込んで受けたりするなどバラバラで、誰が受けて誰が受けていないのかが分からないという問題意識でした。この発言を受けて私は、「私たちの意識も大事だけれど、仕組みもしっかり整えてほしい」とコメントして番組を終えました。制作者やゲストの一番言いたいこと、自分が思うことを全部机の上に載せて、自分の意見も含めたメッセージとして伝えるようにしています。
























