順天堂大学保健医療学部理学療法学科の山田莞爾助教、高橋哲也教授、医学部循環器内科学講座の鍵山暢之准教授らと日本循環器理学療法学会の研究グループはこのほど、高齢心不全患者の身体機能や検査データをAIで解析し、退院1年後の機能的自立の喪失(要介護状態への移行)を高精度に予測するモデルを開発した。その結果、死亡リスクは低いにもかかわらず、1年以内に57.0%が身体機能を失う新たな「低死亡・高機能低下リスク群」を発見した。この成果は、心不全診療では生命予後だけでなくQOLを重視することの重要性を示すものといえる。
今回の研究では、循環器理学療法学会が主導した国内96施設が参加する多施設共同前向き研究「J-Proof HF Registry(研究責任者:高橋哲也教授)」に登録された、心不全で入院しリハビリテーションを受けた65歳以上の患者のうち、入院前は自立していた6382人(95施設)のデータを解析した。
同研究グループは、年齢や性別、心機能、血液検査データといった従来の臨床情報に加え、理学療法士が退院時に標準的な手法で測定した「バーセルインデックス(BI)」、「SPPB(Short Physical Performance Battery)」、歩行速度、握力といった客観的な身体機能データを含む77項目の候補因子を機械学習(XGBoost)に学習させた。
モデルの性能を厳格に評価するため、「Leave-one-site-out交差検証」という手法を用いた。これは、解析対象となった95施設のうち1施設を完全に未知のテストデータとし、残りの94施設で学習したモデルで予測精度を検証する、というプロセスを95回繰り返す頑健な検証方法。
その結果、開発したAIモデル(10項目の簡易版)は、高齢者のフレイルを評価する標準的なスクリーニングツールである「基本チェックリスト(KCL)」に基づくスコアと比較して、統計学的に有意に高い退院1年後の機能低下の予測精度(AUC0.75)を達成しました。
さらに、死亡リスクと機能低下リスクを組み合わせて患者を四つのグループ(リスク表現型)に分類すると、死亡リスクは低い(生存率89.0%)にもかかわらず、1年以内に57.0%もの患者が身体機能を失う「低死亡・高機能低下リスク群」(1732人)の存在が明らかになった。
これは、従来の死亡リスクを中心とした評価では見過ごされてきた集団であり、「生命は助かっても自立した生活を失う」というこれまで十分に注目されてこなかったリスクを可視化するものといえる。
今回の研究で開発したAIモデルを用いることで、退院時に機能低下のリスクが高い患者を客観的に特定し、集中的なリハビリテーションや個別化された退院支援計画を優先的に提供することが可能となる。
特に、死亡リスクが低いために見過ごされがちな「低死亡・高機能低下リスク群」を早期に特定できることは、限られた医療・介護資源を効率的に配分することにもつながる。
同研究グループは、この予測モデルを臨床現場の医療スタッフ(医師や理学療法士など)が日常的に使えるよう、プロトタイプのWebアプリケーションも開発しており、退院時のリスクを推定し、身体機能パラメータの改善による効果をシミュレーションしている。今後は、このツールの臨床的有用性を検証する研究を進める予定となっている。
今回の研究が、高齢心不全患者の生命予後だけでなく、QOLの維持・向上に貢献することが期待される。
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