久光製薬は14日、貼付剤に強い米製薬企業「ノーベン・ファーマシューティカルズ」を約4億3000万ドル(約400億円)で買収すると発表した。独自の経皮吸収治療システム(TDDS)技術を用い、パッチ剤を販売するノーベンを手中に収めることで、久光は米国に医療用医薬品事業の拠点を構築。これを足がかりに、海外展開を本格化する方針を鮮明に打ち出した。都内で記者会見した中冨博隆社長は、「両社が持つTDDS技術の相乗効果を最大限に活用し、真のグローバル企業として世界に打って出たい」と意気込みを語った。
ノーベンは、1987年に設立されたスペシャリティ・ファーマで、昨年度の売上高は約100億円。独自のTDDS技術「ドットマトリックス」を用いた主力製品として、世界初の注意欠陥/多動性障害(AD/HD)治療用パッチ剤「デイトラーナ」、更年期障害治療用のホルモンパッチ剤「バイベルドット」を展開している。また、第II相試験中の非ホルモン剤「メフェサム」をはじめ、婦人科、中枢神経系の有望な開発パイプラインと共に、米国での強固な販売・マーケティング力が強みとされる。
一方、久光は2001年からノーベンに資本参加。4・8%の発行済み株式を取得し、提携関係を深めてきたが、さらなる成長のためには、米国での事業体制の整備が急務と判断。ノーベンを完全子会社化することで、本格的に海外展開に乗り出すことを決定した。現在、久光の海外売上高比率は5%、米国売上高は約20億円にとどまっているが、これにノーベンの売上高約100億円が加わると、海外売上高比率は一気に10%を超えることになる。
中冨氏は「以前から米国展開の可能性を検討してきたが、ノーベンの子会社化によって米国での事業拡大を加速し、両社のTDDS技術を高めて成長を確固たるものにしたい」と強調した。
今回の買収により、久光はノーベンを医療用医薬品の米国拠点と位置づけ、OTC事業は米子会社の「久光アメリカ」で事業を展開する。薬事申請に関するノーベンの豊富な経験を活用することで、自社品の外用鎮痛消炎剤「HKT‐500」(一般名ケトプロフェン)の開発を推進し、海外事業展開を加速させたい考えだ。中冨氏は「TDDS技術の相乗効果を最大限に活用し、製品開発を加速させると共に、米国における販売組織の獲得によって、自社製品の価値最大化を図っていきたい」との方針を示した。
久光は、TDDSに強いスペシャリティファーマとして、経皮吸収型消炎鎮痛剤「モーラステープ」を中心に、国内医療用医薬品市場で確固たる事業基盤を構築してきた。しかし、特化路線で好調な業績を上げてきた久光が米国展開に乗り出したことで、準大手で進んでいた海外シフトの流れが、一気に国内中堅へと波及した格好だ。中冨氏は記者会見で「貼付剤の応用にチャレンジする精神は米国の方が上だが、品質は日本の方が高い。ノーベンの挑戦力と久光の品質が一緒になったところに、貼付剤で世界に打って出るチャンスがある」と語った。それだけに今後、国内中堅の生き残り戦略は、さらに流動化してくることが予想される。