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コミュニケーション能力の醸成を

2006年02月06日 (月)

 最近、日本の社会と日本人が、少しおかしくなっている。子供を狙った犯罪の頻発、刑法事犯の低年齢化など、昭和までの日本からは想像もできないような異常な事態に陥っている。

 日本人だけに限らないが、今の人間が昔と大きく変わってしまったことについては、いくつかの要因が指摘されており、携帯型ミュージックプレイヤーや携帯電話・eメールの普及も、理由の一つに挙げられている。以前は日常一般的だった人との対話や、社会・環境とのつながりを遮断し、自分の都合だけで一方的に意思を伝える手法が、今や当然のこととして、まかり通っているのが現状だ。他人との会話も、ネット上のチャットでしかできなくなっている若者も、少なからず出現していると聞く。

 対面によるコミュニケーションの機会減少と能力欠如は、便利さと迅速性・合理性を追求したIT化の急激な進展による副作用とも言える。また、インターネットの普及は、意味が不明確なアルファベット略語や、新たなカタカナ語(外来語)の氾濫をも招いてしまった。

 東京都は昨年3月、外来語言い換え基準を作成した。その目的は、「分かりやすく親しみやすく表現され、相手に意思や情報を的確に伝達することができる文書にすること」とされている。意味の説明を付した言い換え例は実に339語に及び、外来語がいかに汎用されていたかが分かる。

 保健医療・薬事の関係用語だけを取り上げても、略語のAIDS(後天性免疫不全症候群)、BSE(牛海綿状脳症)、EBM(根拠に基づく医療)などから、クリニカル・パス、コ・メディカル、電子カルテ、トリアージ、バイオテクノロジー等々、数多くの外来語が記載されている。

 この基準では、医療機関など特定層を対象とする公文書は基準の例外としているが、専門領域の現場では当たり前のように使用されている用語も、一般には認知度、理解度が低く、十分に定着していない場合が多いことに留意すべきだと指摘している。

 生命、健康に直結する医療では、医師や薬剤師、看護師と患者のコミュニケーションによる正確な意思疎通は、必要不可欠かつ絶対的な基本原則である。患者や消費者に対して専門用語を使用した時点で、正しい円滑な意思疎通は遮断されてしまう。相手を慮った普通の会話は、仕事を的確に進めるだけでなく、人間としての信頼の醸成にも役立つものだ。

 薬学教育も6年制に移行するが、教育は期間が長ければ優れた人材が育つというものでもない。専門領域の知識や能力の向上を図ることは無論だが、その専門性向上に見合った人間性の成熟も同時に求められている。

 服薬指導業務などでも、ただ一言だけ話して紙を手渡すのではなく、やりとりのある会話が重視されることは当然だ。外来語言い換え基準の目的にもあるように、正確な情報提供はもちろんのこと、分かりやすさにも気遣った対応ができる、成熟した社会人になってほしいと願う。



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