抗癌剤「オプジーボ」の価格が極めて高額だとして、来年2月から薬価を50%引き下げる異例の緊急薬価改定を実施することが決まった。当初、特例拡大再算定を適用し、最大25%引き下げる方向が想定されていたが、ふたを開けてみると、政府の経済財政諮問会議や政治家などの引き下げ圧力も加わり、最終的に50%引き下げという前代未聞の対応で決着を見た。
これまでの議論を振り返ると、「オプジーボ」の薬価が高すぎて国が滅びると国頭英夫医師が訴えたことをきっかけに、中央社会保険医療協議会の場で議論が沸騰した。委員から出た多くの意見は「国民皆保険制度の崩壊を招きかねない」「公的保険制度の堅持が大前提」というもので、それ自体は納得できる。
ただ、実際の議論は公的医療保険制度の維持という大義名分のもと、「オプジーボ」を材料に次期診療報酬改定に向けた財源の奪い合いの様相も見え隠れしていた。一部診療側委員からは、公的医療保険制度という錦の御旗のもと企業戦略にまで注文を付ける意見が出て、公的医療保険制度が企業戦略に翻弄されているとまで言い切っていたが、「オプジーボ」そのものが政治まで絡み、すっかり様々な思惑に翻弄されてしまった感がある。
ひとまず当面の薬価引き下げ問題は決着したが、問題はこの先だ。中医協では薬価のあり方が議論されていくことになるが、今後はいかに価格に見合った薬を適切に使っていくかという議論を発展させていかなければならない。本紙では、高額な薬剤費を抑えるためには、個別化医療の研究を国として加速させ、効果が見込まれる患者の選別を積極的に進めていくべきで、抗癌剤の廃棄量を減らす施策による医療費削減効果という視点も必要ではないかと指摘してきた。
実際、先日の中医協総会で支払側委員から、薬剤費の保険請求をバイアル単位ではなく、使用量単位への変更を検討するよう求める提案が出てきた。
患者に用いた後、バイアルに余って廃棄される薬の分まで保険請求できるという現行制度を見直し、使った分だけ保険請求できるようにしたらどうかというもので、こうした提案が公の場に上がってきたことは歓迎したい。
医療機関の負担にならないという前提をどう整備するかが課題となるが、医療関係者も患者にもメリットがある医療費削減策であることは確かである。
一方で、個別化医療の研究はそんなに短期間で結果が出るものではないが、既に効果のある患者を調べる診断薬とセットで新薬を承認する動きが加速している。その分、薬価が高くなっても、効果のない患者に投与されなくなれば結果的には医療費はバランスするか、削減の方向につながるだろう。
薬価制度についても次期改定に向け抜本的見直しを行うことで合意されたが、問題はそこだけにとどまらない。立体的な思考で高額薬剤の問題解決に踏み出すべきである。