2008年が幕を開け、間もなく1カ月が経とうとしている。今年も、年始には業界団体主催の新年賀詞交歓会が開かれたが、実際に出席した印象は、正月の華やかさというよりも、先行きが不透明なことがあってか、厳しい言葉ばかりが相次いだという印象だ。
特に今年は、2年に1度の薬価制度改正が4月に控えており、「厳しい」という言葉がより現実的な数字となって表れることが十分予想されるだけに、各種の賀詞交歓会でも厳しい雰囲気が醸し出されたということだろう。
実際、昨年を振り返ると、業界が要望していた官民対話は「革新的創薬のための官民対話」として実現。さらに、その官民対話の場において、「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年戦略」が策定されるなど、医薬品産業が日本経済発展のリーディング産業の一翼を担うことが内外に認知された。
具体的には、医薬品医療機器総合機構の審査人員倍増や就業規則の緩和などによる治験相談、承認審査体制の強化が実現したほか、新しい治験活性化計画のスタート、新医薬品産業ビジョンの制定、ドラッグ・ラグ解消に向けた具体的な対応など、様々な取り組みも始まった。これらは日本の医薬品産業が大きく飛躍していく上で、必要なものばかりであり、医薬品産業にとって、07年は画期的な1年だったと振り返ることができよう。
しかし、懸案事項となっていた薬価制度改革についてみると、必ずしも前進したとは言えず、むしろ敗北感が業界全体に漂った。
昨年12月に中央社会保険医療協議会で了承された次期薬価制度改革の骨子では、業界の意見を受け入れ、新薬に関する評価が充実されたものの、業界が猛反発していた市場拡大再算定は、対象範囲が拡大されることになったばかりか、長期収載品の特例引き下げは、引き続き実施されることになった。
当初、厚生労働省が示した案に比べると、了承された骨子は業界の意見を考慮し、激変緩和措置がとられることにはなったが、「市場拡大再算定や特例引き下げが実施されること自体、異常」と日本製薬団体連合会の森田清会長が話すように、最初に“財政ありき”でこうした施策が進められたことに、業界内に失望の声が多いのも事実だ。
さらに、業界が提案した薬価制度改革案は、一連の改定作業が終了した後、4月以降本格的に議論を始めることになっており、森田日薬連会長は巻き返しを図る考えを強調する。
業界側の提案は、イノベーションの価値に見合った薬価を実現することだ。中でも、森田会長が強く主張するのは、医療制度の中での薬価のあり方である。「医薬品産業は医療制度の中で薬物療法で貢献している。これを理解してもらい、その価値を薬価に反映してほしいというのがわれわれの考えだ」と、価値に見合った価格設定のあり方の重要性を主張する。
近年は、新薬1品目にかかる研究開発費は50001000億円程度と言われており、次の研究開発投資を早期に回収するには価値に見合った薬価の実現は必要不可欠であり、同時に新薬を創出し続けないと、企業そのものも存続できないことにもなるのだ。
新年会の席で、あるトップは業界の提案について、「これが実現しないと日本の製薬産業は、そのまま埋没するという危機感がある。業界を挙げて取り組まないといけない」と指摘した。まさにその通りだ。その視点から見れば、今年は価値の見合った薬価制度改革の実現に向けた重要な1年になることだけは間違いない。