グループ研修に「災害薬学」を採用

小林氏
新潟薬科大学(新潟市)では、多彩なプログラムが特徴の「薬剤師生涯教育講座」を提供しているが、今年は全国の大学で初めてグループ研修に「災害薬学」を取り入れた。今年4月に、同大学の生涯研修認定制度を規格・運営する高度薬剤師教育研究センター長に就任した小林靖奈教授は今後、「参加型」「明日から使える薬物療法」などをキーワードにした講座の提供を「考えていきたい」と話す。2008年9月に薬剤師認定制度認証機構(CPC)から認証機関(プロバイダー)の認証を受け、全国の大学で5番目の生涯研修認定単位(シール)発給機関になったという過去の実績にすがることなく、新たなチャレンジに挑む。
同大学の「グループ研修」では、薬剤師として活躍する上で必要な医学的知識を得て、技能の向上を図るため、セミナー形式の講演や実習などを行っている。
18年度は、▽がん薬物療法▽症候と疾患▽薬物速度論入門▽感染症▽災害薬学▽褥瘡の評価と薬物治療――の6テーマを設定した。小林氏は、「今回はより薬物療法に重きを置いたグループ研修を組んだ」と話す。
中でも特徴的なのは、災害が多い新潟県の特性を踏まえ、グループ研修のテーマに「災害薬学」を取り入れたこと。小林氏によると、「大学が中心になって、病院薬剤師や薬局薬剤師を対象とした生涯教育講座で災害医療に関するグループ研修を実施するのは全国初の取り組み」だという。
阪神淡路大震災では、対応の遅れが原因でおよそ500人が亡くなったとされている。小林氏には、こうした「避けられた死」を目の前に、「救えるはずの命」に目を向け、避難所での被災者の生活に薬剤師がもっと積極的に関わってもらいたいとの思いがある。
また、災害が起きてから行動するのでは遅く、そのためには事前にある程度の知識や各班の行動を頭に入れておくことが、発災時に限られた資源と時間を有効に使って被災者のために行動するには必要であると考え、グループ研修に取り入れた。
災害薬学は、今後も継続的に研修のテーマとして取り上げ、「発災時に地域の薬局薬剤師は他の医療機関とどのように連携してどう行動すればよいのかを学んでもらい、被災状況が刻々と変化する中で、薬剤師があらゆることに適切かつ迅速に対応できるような体制作りに貢献したい」と考えている。
また、人々が健康で自立した生活を営むことができる社会(健康自立)の実現に向けた取り組みを行っている同大学では、県外で一般向けの「健康自立講座」を行っているが、今年から、薬剤師向けの生涯学習講座も県外で行うこととした。県外での講座は、昨年までは、一般向けの「健康自立講座」のみだったが、「なるべく薬学部がない地域で薬剤師を含めた講座を提供しよう」(小林氏)との理由から、新たな取り組みを行うこととなった。
今年度は、富山県(富山市)と山形県(山形市、酒田市)で実施。富山県の講座は6月30日に終了したが、今月21日の酒田市、22日の山形市では、「冷えは万病のもと」=川嶋朗氏(東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授)をテーマとした「健康自立講座」を行い、同じ日に時間をずらして川嶋氏による「統合医療~その現状と今後~」をテーマとした生涯教育講座を行う。
県内の講座は、第5回(8月4日)が、「妊婦、授乳婦の薬物治療、服薬指導~その現状と今後~」=石川洋一氏(明治薬科大学薬学部教授)、第6回(9月29日)は「心療内科・精神科クリニックの薬剤師外来とは」=保田晶子氏(ライフガーデン中央クリニック・薬剤師)、第7回(10月21日)は「緩和医療の現状~症例を通じて考える~」=野本優二氏(新潟市民病院緩和ケア内科部長)、第8回(11月10日)は「癌患者さんの栄養療法(特に終末期の栄養療法を含めて)と薬剤師の関わり」=二村昭彦氏(藤田保健衛生大学七栗記念病院薬剤部)、第9回(12月1日)は「小児在宅医療から地域における小児医療を考える」=柳原俊雄氏(新潟県立吉田病院子どもの心診療科)を予定している。
生涯教育講座の登録料は、同大学の卒業生が1000円、他大学出身者は1万円で、単回受講(1回1500円)も可能だ。
小林氏は、生涯学習講座とグループ研修について、これまでの講義形式ではなく「遠方から参加してくれた方の満足度を高めるために、参加型の研修を積極的に取り入れたい」と話す。大学教育においてもアクティブラーニングが積極的に進められており、「当然、医療人教育にも必要になる」ことから、参加型研修を「強く進めていきたい」考えのようだ。
グループ研修を足がかりに、「薬剤師に必要な臨床研究を展開していきたい」との意向も示す。「研究というと敷居が高く感じる方も多いかもしれないが、薬剤師が日々悩んでいたり、疑問に思ったことを臨床研究テーマとして取り上げ、具体的な解決方法を模索して、リアルワールドからのエビデンスを構築していくといった一連の流れについて、何らかの手ほどきを示せるような講座を行っていければ」と語る。
講座では、「明日から使える病気と薬物療法の知識」を得てもらいたいという。難しい疾患の難解なメカニズムを話してもらっても、目の前の患者が良くなるためにその知識が活用されなければ意味がないからだ。「地に足のついた薬剤師目線の講座を提供していきたいというのが私の考え」と話す。また、「研修会で蓄えた知識を患者に還元しないと国や社会が求める真の医療人になり得ない」との考えから、高度薬剤師教育研究センターでは、「アウトプット力を高め、地域にもっと貢献できる薬剤師の養成」にも注力したいと考えており、アイデアは尽きないようだ。
新潟薬科大学 高度薬剤師教育研究センター
http://www.nupals.ac.jp/koudo/