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流通改善ガイドラインを受けて各セクターはどう行動したか?

2018年11月06日 (火)

〔(3)価格交渉の動向〕

1.2018年薬価改定における価格交渉の実態

 流通改善ガイドラインにおいては、特別な管理が必要な医薬品、長期収載品、後発品等カテゴリーごとの特徴を踏まえた流通改善の取り組みについて明記されており、医薬品卸は個々の医薬品の価値を踏まえ、少なくとも前年より単品単価取引が進展することを前提に単品単価での価格提示を実践している。

 一方、上述の通り2018年薬価改定における医薬品メーカーの仕切価格水準は約0.4%、正味原価水準は約1%程度高まっており、過大な値引交渉の是正への取り組みと相まって、必然的に医薬品卸が顧客に対して提示した納入価格水準は前回に比較して高い傾向にあった。医薬品卸は顧客に対しこれまで以上に値付けの背景や根拠を説明し、市場全体としては不退転の決意のもと、厳しい価格交渉に臨んでいる。

 しかしながら、未妥結減算制度の対象となる大病院や保険薬局チェーンにおいては、医薬品の仕入原価率向上は経営への影響が少なくなく、医薬品卸に対し強硬な値引交渉を要求するケースもあった。ある病院においては医薬品卸の営業担当者を呼び出し、携帯電話を没収して上司との連絡手段を断絶した上で、取引停止を仄めかせながら値引き要求の即答を迫った実例があったと聞く。

 保険薬局チェーンとの価格交渉は熾烈を極めた。保険薬局チェーンは調剤報酬改定に伴う調剤基本料ダウンの影響が大きく、仕入原価水準の上昇は受け入れがたいものであろう。

 大病院や保険薬局チェーンにはこれまでの薬価改定時における経験則から、価格交渉時期が後半になればなるほど医薬品卸の値引率がアップするという感覚があろう。冬場のインフルエンザや花粉症など季節商品では経営面での影響も少なくなく、いわゆる長期未妥結問題の要因であった。

 流通改善ガイドラインを前提に薬価改定後早い時期に納入価格水準アップを打診した医薬品卸が取引を停止されたという事例も散見されたようであり、医薬品卸は大病院や保険薬局チェーンに対する価格交渉のスタンスとして、概ね7月頃までは流通改善ガイドラインに沿った方針を理解いただくことを優先とし、具体的な価格提示は慎重にならざるを得なくなった。顧客が本格的に医薬品卸との価格交渉に応じたのは未妥結減算制度の期限が迫った9月頃ではないだろうか。

 このような背景もあり、保険薬局チェーンにおいては未妥結減算を回避するために、納得しないながらも一旦は医薬品卸の提示価格を妥結したケースや、地方厚生局に価格妥結証明書類を提出する11月まで交渉を継続するケースもあると聞いている。

 また、個店の保険薬局においては、今後の薬価頻回改定や単品単価取引の進展を見据え、本来の業務ではない価格交渉業務の手間を削減するために、医薬品卸との価格交渉を協同で行う保険薬局ボランタリーチェーンへ加盟する事例が急増している。保険薬局ボランタリーチェーンは医薬品卸と全国一律の価格交渉を行っており、僻地や離島に所在する加盟保険薬局においても全国一律価格が適応されるため、医薬品卸が保険薬局店舗に医薬品を届けるための流通コストすら確保できない状況に陥ってしまう。医薬品卸は個店の保険薬局に、ボランタリーチェーンへの加盟により流通コストが補填できないことからこれまで通りの取引継続をお願いするものの、保険薬局ボランタリーチェーン本部側から医薬品卸への取引停止リスクがあるため、医薬品流通機能の安定性を損ないながらも応じている状況にある。

2.流通改善を阻害している要因

(1)営利法人としての経営計画重視

 そもそも保険薬局は民間法人であり、保険薬局チェーンは上場している企業が多い。営利法人である以上、年度の経営計画は決算時期を見据え立案しており、多くは仕入原価率を前年並みに設定していたであろう。そして、その水準は総価ベースであり、単品ごとの原価水準は考慮していない。すなわち、保険薬局チェーンの視点に立てば、経営計画を立案した時期には流通改善ガイドラインについての認識がなく、仕入原価水準の交渉は前回と同水準のスライド要求をベースに考えていたと思われる。

 このような保険薬局チェーンは、価格を一旦妥結しても10月以降に医薬品卸と価格再交渉を行い、年度として経営計画に基づいた仕入原価率を確保できれば良いと考えているのであろう。しかしながらこの実態は、流通改善ガイドラインに謳われている『頻繁な価格交渉の改善』に反していると言えよう。

(2)契約なき保険薬局と医薬品卸の取引慣行

 保険薬局と医薬品卸間の取引は「取引基本契約」に基づき行われている。しかし、ほとんど具体的な取り決めがないためにその実効性は低い。また、病院と医薬品卸間においては、入札をはじめ価格提示期間や交渉の方法等が定められており、妥結価格を覚書として締結するケースが多いが、保険薬局と医薬品卸間の価格交渉においてはそのような商慣行は少なく、近代的な取引であるとは言い難い。

(3)医薬品卸の売上至上主義

 医薬品卸の営業部門における業績評価には、販売ボリュームに基づく項目があり、営業部門の視点に立てば顧客との取引停止は最も回避したいと考えよう。医薬分業の進展に伴い今や医薬品卸にとって最大の販売先となった保険薬局チェーンに対して、医薬品メーカーからの販売に基づくアローアンス政策も相まって、適正価格を下回ってでも売上確保を志向してしまう実情がある。

3.将来への提言

(1)川上流通における提言

 [1]医薬品卸の原価管理を困難にするアローアンスの見直し

 そもそも医薬品の製品価値を踏まえた単品単価取引を実現するうえでは、当該医薬品の適応追加や特許満了など、製品価値を見直すイベントが無い限り、基本的な製品価値は変わらないと言える。したがって、薬価改定を経ても医薬品メーカーの仕切価率は値上げする根拠に乏しい。医薬品メーカーは根拠無き仕切価率の上昇を慎むべきである。

 また、医薬品卸は医薬品単品ごとに原価管理を実施し、原価に基づき適正な利益をマークアップする値付方式を前提とすべきである。そのためにも、医薬品メーカーによる販売数量に基づき支払われるアローアンスは、事前の原価管理を困難にしてしまう。医薬品メーカーは販売事後的に確定するアローアンス政策を慎み、仕切価格へ転嫁すべきである。

 [2]流通コストの削減に寄与する包装形態への移行

 医薬品メーカーが製造する規格には、1日3回服薬する医薬品が100錠包装で流通されるなど、顧客にとって余剰在庫を必然的に生じるような規格が多い。流通改善ガイドラインにおいても、不動在庫や廃棄コスト増による経営への影響を考慮した返品条件の明確化が謳われており、医薬品メーカー流通コストの削減に寄与できる箱出し調剤を可能とする規格の検討をしていただきたい。


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