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保険外し、漢方の有用性考慮を

2019年12月13日 (金)

 先月末から、一般用医薬品と同じ有効成分を含む医療用医薬品である市販品類似薬が公的医療保険の対象除外や自己負担引き上げなどの方向で調整に入ったとする情報が流れている。今夏にも「花粉症のOTC類似薬」とカテゴリーを指定した提言が行われ、物議を醸したことも記憶に新しい。高騰する医療費の抑制手法として、政府はこれまで禁じ手だった「市販品類似薬の保険外し」を本気で考えているのだろうか。

この手の話題が起きると毎回、俎上に上がるのが医療用漢方製剤である。前回はちょうど10年前、政府の行政刷新会議による「事業仕分け」によるものだった。日本東洋医学会などを中心とした団体による反対署名活動では約93万人が署名。結果的に撤回する形となった。

 単純にOTC類似薬というだけで漢方製剤の保険外しを進めることには疑問がある。それは、医薬品市場全体から見ればわずかな市場に過ぎないからだ。

 厚生労働省薬事工業生産動態統計(2018年)によると、医薬品全体市場約6兆9077億円の中で、漢方製剤等が占めるのは約1927億円と全体の2.8%ほどである。また、漢方製剤の市場動向は、直近5年間で医薬品全体が4.8%増に対し18.9%増加するなど、臨床現場で漢方製剤が高く評価されていることを裏付けており、今後もこうした動向が続くと想定されている。

 漢方医学教育もこの10年ほどで大きく変化した。医学教育モデル・コア・カリキュラムの到達目標が11年改定では「和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる」となり、さらに17年改定では「漢方医学の特徴や、主な和漢薬の適応、薬理作用を概説できる」となった。医師の約90%が漢方薬の処方を経験するなど、今や医療現場で欠かせない薬剤となっている。

 漢方薬は中国から伝来し、国内で長い年月をかけて繰り返し使用され、疾病治療の手段として確立された。現代医療の中では和漢薬の使用で古典的な処方選択と合致しないものもある。

 しかし、その作用機序についての科学的根拠の解明に向けても様々な基礎、臨床研究が進められている。例えば人工知能(AI)技術を用いて、漢方薬の成分化合物の化学構造情報をもとに作用機序や新規効能を予測する「漢方薬リポジショニング」や、リアルワールドデータ(RWD)を用いた漢方薬の有用性研究などにより、新たな可能性が見出されている。

 費用対効果の意味でも比較的薬価が低い漢方薬を有効的に使用することで、医療費の適正化にも貢献できる可能性が高い。医療費抑制策の手法として漢方薬が保険から外され、医療現場での使用が減少すれば、日本の医療界にとっても大きな損失となる。単純にOTC類似薬というだけではない漢方の有用性を考慮すべきである。



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