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医療安全調査委、早急な設置を

2008年09月05日 (金)

 医療関係者が固唾を飲んで見守っていた医療事故の裁判。福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡した事件で、福島地方裁判所が被告の産婦人科医が無罪とする判決を言い渡した。これについて、福島地検は控訴を断念することになった。このことによって、産婦人科医の無罪が確定した。

 医療業界に波紋を呼んだこの裁判は、医療にはリスクが伴うということについて、司法が「医療行為の結果を正確に予測することは困難」として一定の理解を示し、一応の決着をみたことになる。

 この女性は2004年12月17日、帝王切開手術で女児を出産後、子宮に癒着した胎盤をはがす処置を受け出血死した。検察側は「癒着胎盤と認識したら、直ちに子宮摘出手術に移行すべきだった」と医師の過失を主張していたが、被告側は剥離を継続した手術経過の医学的正当性や、被告に異状死の認識がなかったことなどから、無罪を主張していた。

 医療界が注目を集める中で、最大の争点となったのは術法の適否だったが、福島地裁の判決では、「医療行為の結果を正確に予測することは困難」とし、治療法選択で医師に広い裁量を認め、判断ミスを否定した。

 この事件が起訴、裁判となったことを受けて、日本医師会をはじめ医療関係団体は反発し、「現場では何が起こるか分からないことが多い。結果だけで刑事責任を追及されると、医療現場に混乱をもたらす」などの意見も述べていたが、司法はこうした判断を受け入れた格好だ。

 しかし、無罪になったからといって、問題がなかったかといえば、決してそうではない。死亡した女性の命は戻らない。医師に過失はなかったといっても、患者への説明など医師側の対応に、全く問題がなかったとは言い切れない部分もあった。そのため、今後は再発防止につながる真相究明も必要となるだろう。

 ただ、この事件は産科をはじめとする医療現場に、大きな衝撃を与えた。医師の病院離れやリスクの高い患者を受け入れない「委縮医療」を加速させたともいわれ、妊婦のたらい回し事件などは社会問題にもなった。結果的に無罪になったとはいえ、こうした事例は、今後の医療にも少なからず影響を与えるのではないだろうか。

 また、この裁判がきっかけとなって、医療事故が起きた際、いきなり警察ではなく、専門家で構成する第三者委員会が調査する制度を創設する方向へ、議論が急速に進んだ。

 厚生労働省が、「医療安全調査委員会」の設置に関する最終案を4月にまとめたが、その最終案は、医療機関が委員会へ報告する医療事故の範囲を、医療過誤や医療行為に伴う予期せぬ死亡例に限定し、事故のうち捜査機関へ通知するのは、カルテの改竄(かいざん)など、犯罪ともいえる「悪質」なケースに限った。捜査機関は、委員会からの通知がなければ委員会の調査を尊重し、捜査に乗り出さないなどの点が骨子となっている。

 とはいえ原因の究明、再発防止、さらには萎縮医療を避ける上からも、事故の調査は絶対に必要である。今回の事件が契機となって、その道が開かれたことは、不幸中の幸いであった。

 このところ、地域の産科医が減少し、住民が安心して出産できない不幸な事態が続いている。それだけに今回の事件を教訓にする必要があり、国、地方公共団体、医療関係者が連携しながら、具体的な対応策を探ってほしい。



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