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【日本薬学会第143年会】薬学会賞受賞研究 固体触媒の創製と潜在的触媒活性の発掘に基づく官能基変換法の開発

2023年03月23日 (木)

岐阜薬科大学副学長・教授 佐治木 弘尚

佐治木弘尚氏

 効率的でグリーンな有機合成プロセスを確立するためには、機能性触媒・低環境負荷・省エネルギーなどのキーワードを組み合わせた方法論の開発が必須である。固体(不均一系)触媒は分離、回収、再使用が容易でプロセス化学的に有用であるが、均一系触媒と同等の活性や選択性が求められる。

 今回、受賞対象となった一連の研究は、触媒量のアミン類が反応系に共存すると、アリファティックベンジルエーテルのパラジウム炭素触媒的水素化分解反応が、選択的に抑制される現象を見出したことに端を発する。

 これを研究基盤として、「触媒毒をパラジウム炭素に固定することで官能基選択性を獲得する戦略」と、「触媒担体の性質を利用して触媒活性を制御する戦略」で研究を展開して、20種近い官能基選択的接触還元触媒を開発し(図1-Aと上段写真)、その多くを試薬として上市した。

図1

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 さらに、不均一系接触還元触媒の開発過程で、活性炭担持パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム等の既存汎用白金族触媒が「酸化反応」「炭素-炭素・炭素-X結合形成反応」「芳香核還元反応」「重水素標識(H-D交換)反応」「芳香族脱ハロゲン反応」「炭素-炭素結合開裂反応」など、その時点ではほとんど知られていなかった触媒活性を示すことに気づき、新たな触媒機能の発掘研究を展開した(図1-B、Cと中央下構造式

 特に「炭素-炭素・炭素-X結合形成反応」には、リガンドフリーで進行する不均一系「鈴木-宮浦反応」「薗頭型反応」「Stille反応」「Glaser反応」「芳香族ビスマスとハライドのカップリング反応」「Larockインドール環化反応」、そしてリガンド共存下で進行する「Buchwald-Hartwig反応」と「檜山カップリング反応」などの多くの反応が含まれている。また、それらのいくつかは、無溶媒の固相条件下でも進行することも明らかにした(図2

図2

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 さらに「芳香族脱ハロゲン反応」は、トリエチルアミンや金属マグネシウムを共存させると、脱塩素化が常温常圧で進行することを突き止め、PCB、DDTやダイオキシン類の常温常圧分解法へと展開した。

 この成果は、2008年度NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)マッチングファンドに採択されて50Lスケールのパイロットプラント研究まで進み、反応開発に重点を置いた薬学基礎研究を、実用化を視野に入れた環境汚染物質対策研究へと展開することができた(図1-Bと左下写真

 「重水素標識(H-D交換)反応」では、不均一系白金族触媒的に進行するH-D交換反応の活性化剤として水素が機能することを発見し、医薬品やポリマーをはじめとする様々な化合物の重水素標識法(フロー連続合成を含む)として展開した。

 これらの成果は、富士フイルム和光純薬の受託合成事業の一部として実用化されている(図1-Cと中央下図

 最近では、「これまでに開発した固体触媒反応の連続フロー合成法への適用研究」や「遊星型ボールミルによるメカノ反応を利用する水分解を基盤とした水素製造法」など、作業効率やエネルギー効率を考慮した合成手法や新しい反応開発への挑戦と共に、次世代エネルギー創製研究への展開も図っている(図1-D

 引き続き、創薬やプロセス化学に貢献する基礎と実用化を両立した研究はもちろんのこと、薬学としても寄与すべきである地球温暖化対策などの「水素をキーワードとする環境化学に軸足を置いた研究」にも、新しいデバイスを駆使して貢献したいと考えている。



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