
清水昇会長
日本CSO協会が設立されて2年が経過した。会員社の組織体制や人材づくりなどで標準化を成し遂げ、協会をテコに新たな飛躍を目指す方針を打ち出す。清水昇会長(クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン社長)は「サービスの質と幅を広げるための環境整備が必要」と述べ、コンプライアンス対応やビジネスコンフリクトに取り組む考えを明らかにした。清水氏にCSOの業界動向や協会事業の現状、今後の方向性などを聞いた。
需要の高まりを止めない
――国内でCSOが生まれ15周年を迎えたが、市場環境をどう捉えるか。
2009年を転換期にCSOの普及率が高まってきた。1988~2009年までは3%台にとどまっていたが、09~12年で一気に5・3%までにこぎつけた。一つの分岐点を越え、製薬大手から全体に広がり始め、今後も高成長を続けるだろう。
ただ、製薬企業側の需要は、過去の延長線上で伸びるのではなく、常に変化しながら拡大していくと理解しなければならない。われわれが製薬業界で真のパートナーになるためには、顧客が必要とするサービスへの転換、それを実行できる人材づくりをしていかなければならない。サービスの質を高めるだけでなく、幅を広げていくことが求められている。
――09年以降の伸びの要因は。
新薬上市時に、製薬企業の営業部隊とCSOを組み合わせた垂直立ち上げにより、製品売上を早期にピークへと導く戦略が浸透してきた。
一方、国内の医薬品市場を見ると、先発品とジェネリック薬との競合が厳しくなっている。ジェネリック薬の使用推進を背景に、長期収載品の売上が10~20%下がっている状況が起きている。外部リソースとしてCMRを長期収載品のプロモーションで活用する動きも進んでいる。製品上市から特許切れ後までの長いライフサイクルにおいて、CSOがキーになっている。
外部環境の変化だけでなく、CSO各社の取り組みも評価されるようになった。当初は、生活習慣病などのプライマリケア分野が主な支援領域だったが、近年では病院市場や癌・中枢神経系などの専門MRを供給できるようになっている。
海外並みの普及率、実現可能‐協会内の標準化にも手応え
――今後、国内でどのようなサービスが生まれてくるか。CSOのポジショニングとしてどこを目標におくか。
医療制度やMRの訪問活動が異なり、先行する海外サービスを全て導入していくのは難しい。ただ、特定のCSOにプロジェクトを全部委託するような包括的なサービスが普及していくのではないか。臨床開発から上市直前のプレマーケティング、上市後の学術的な情報提供、PMSなどをワンストップで受託するというものだ。実際、製薬企業の営業成績が低い拠点のテコ入れとして、CSOに管理を委託し、成功事例をつくった例もある。
海外事例では、新たな市場に参入する場合に、事業の立ち上げをCSOに任せ、軌道に乗ったところで子会社化する新たな事業モデルも登場している。
人材派遣でいえば、MR中心から、マネージャー層の人材を供給してほしいという要請も増えてきた。プライマリケア・スペシャリティの疾患領域、学術や安全性監視などの業務の広がりに加え、現場から経営・事業戦略まで幅広くサポートしていける存在を目指したい。
――協会設立の当初の目的であった「標準化」だが、今後はどのような取り組みを進めるか。
標準化が必要な領域と、各社がサービスで競い合う差別化の領域を考えなければならない。
業務受託に必要なインフラ整備については、協会内で標準化していきたい。サービス形態や料金体系に関しては、会員社が工夫すべき領域なので、そこには立ち入らずに、健全な競争をやってもらう。
協会事業としては、「人事・教育運営委員会」「広報・マーケティング運営委員会」「法務・ガイドライン運営委員会」の三つの運営委員会を組織している。人事・教育運営委員会は、人財育成のための基盤づくりや車両事故対策、教育講演会を実施している。広報・マーケティング運営委員会では、協会Webでのメルマガ掲載や、製薬団体向け説明会を開催し、情報発信を強化している。
法務ガイドライン運営委員会では、改正派遣法対応やビジネスコンフリクト、ビジネスモデルの検討を行っている。
コンプライアンス対応については、日本製薬工業協会が求めている基準をもとに、CSO協会としてガイドラインを策定し、既に会員各社でも展開している。加えて、今後は、時宜に適ったコンプライアンス関連テーマを都度取り上げ、研修会などを通じて周知・浸透を目指す方針だ。
ビジネスコンフリクトについては、CSOがその業態上本質的に抱える問題であり、これまでも各社で一定の配慮はなされていたものの、業界としての標準がなかったため、ルールづくりを進めている。例えば、ARBやDPP4阻害薬のような巨大市場での競争、ジェネリックメーカー支援と先発メーカーの長期収載品支援のように、会員社内のプロジェクトチーム同士で競合してしまう領域がある。情報管理上の問題、あるいはサービスレベルの棄損リスクなどに対するお客様の懸念を少しでも軽減できるよう、ガイドラインを策定する。CMRがプロジェクトを終えた後の次の配属先についても、同様の懸念を回避できるよう、一定のルールづくりを考えていく必要がある。
――CMRの人材確保は。
昔はCSOのMRにとって製薬企業への転職が理想とする考え方もあったが、製薬企業にいるよりも、CSOにいることでキャリア形成が可能と考えるMRも増えている。異業種人材を採用しMRとして育てる“人材づくり”の基盤もできている。人材確保は可能だ。
製薬企業に所属していると製品や開発パイプラインに縛られてしまいがちだが、CSOでは様々なプロジェクトを経験できる。スペシャリティ領域での受注増を背景に、一定のスキルがあれば、大学病院を担当し、オンコロジー領域MRとして活躍できる。
各社がサービスの幅を広げつつある中、目指すべきMR像を実現するキャリアパスを提示できるという点では、CSOならではの魅力と考える。
――英国の20%台を筆頭に、海外とはCSO活用率でまだ差がある。追いつくのは可能か。
海外の場合、人材を製薬企業が自社で新規採用するよりも、CSOからCMRを導入し、柔軟に対応しているケースが目立つ。CSOの使用目的も多岐にわたっており、戦略的オプションとして使われている。
国内では、新卒を採用し、MRをゆっくり育てるという考え方がある一方、海外のように合理的にCSOを使いたいという製薬企業も増えている。われわれの努力次第で、海外並みのアウトソーシング率を実現できると思う。
――会員社の拡大について。
医薬品卸がAR(アシスト・リプレゼンタティブス)と呼ぶMR資格を持ったMSを使っている。現時点ではCSOのMRとARの位置づけは違うという認識だが、将来的にはARがCSOのMRと同様のサービスを提供するようになった場合には協会に入っていただき、一緒に業界発展を目指していただきたい。
――今後に向けては。
製薬業界でよく言われる“ドラッグラグ”は解消に向かいつつあり、今後は新薬の普及を国内でどう進めていくかが課題となる。
患者に最適な治療を届けるためには、製品の立ち上げを早期に達成し、得られた利益を新たな新薬開発に投資することによって、良い循環が生まれてくる。CSOとして新薬の垂直立ち上げや専門性の高い薬剤分野、さらにはマーケティングや他の機能でのサービス提供を増やすことにより、日本の医療向上にコミットしていきたい。
グローバルに通用する薬剤は、安全性・有効性だけでなく医療費にもメリットがある。再発率を低下させ、社会的コストとして医療費抑制策にも貢献できる。人材・組織の質を高め、サービスの幅を広げることが日本の患者に最適医療を早く届けることになると信じている。
この記事は、薬事日報2013年4月15日号に掲載された記事です。