福島第1原発の処理水放出をめぐって国内外で大きな問題になっている。特に中国による日本の水産物全面禁輸は重大な影響が発生している。
この問題は正確な情報が伝えられ、皆が理解していれば発生しなかったとも言える。中国の日本水産物禁輸は政治的色合いが濃く、必ずしもこの論調に合致しないが、少なくとも中国以外の諸外国には、科学的根拠に立脚した処理水放出に対する理解は得られていると考えられる。
正しい知識の普及と理解促進は、生命に直結する医薬品関連でも非常に重要である。国立国際医療研究センター病院AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンターが公表した「抗菌薬(抗生物質)に関する調査」の結果によると、余った抗菌薬を保持していたことがある人は41.4%おり、その取っておいた抗菌薬を子供に使ったことがある人は64.3%に達したことが分かった。
抗菌薬に対する知識としては、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」66.8%を筆頭に、「かぜに効く」「治ったら早くやめる方が良い」「のむとかぜが早く治る」との回答が50%以上となったが、いずれも間違いであった。
同センターでは、「誤った認識は、かぜの時に抗菌薬を求めたり、服用することにつながる可能性がある。ウイルスが原因のかぜには抗菌薬は効かない。それどころか、不必要な服用により副作用が出現したり、薬剤耐性菌が出現することがある」と警鐘を鳴らしている。
同センターのホームページでは、情報サイト「かしこく治して、明日へつなぐ」において、一般向けと医療従事者向けそれぞれに、正しい知識の普及用に役立つような各種ツールと資材を掲載している。
一般用では「かぜに抗菌薬は効きません」という項目が用意されており、そこではかぜの原因はウイルスが大切なポイントであると訴えている。大前提である細菌とウイルスは全く別の病原体であるという知識が欠如していると、抗菌薬・抗生物質を誤った方法で使用してしまい、結果としてまた新たな薬剤耐性菌を生みかねない。
医療従事者向けでは、各種耐性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、基質拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生菌、AmpC産生菌、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)ごとに解説しているが、CREに関しては「悪夢の耐性菌」と呼ばれていることを紹介して、その危険性を指摘している。
正確な情報を習得することは、無駄な行動や資金を回避する効果がある。新たな抗菌薬の開発が滞っている現状では、正しい知識を駆使して適正使用を徹底し、可能な限り薬剤耐性菌の拡大を阻止していかなければならない。