TOP > 寄稿 ∨ 

【薬剤師に伝えたい 獣医療の現在と未来】第2回 ペット業界の今 獣医師・佐藤貴紀

2023年12月04日 (月)

ペット業界市場は約1.7兆円

 皆さんはペット業界がどれほどの市場規模であるかご存じですか?実は約1兆7000億円市場と言われています。約1兆7000億円のうち、動物病院が約4000億円、ペットフードが約4000億円、トリミングやドッグラン、ペットホテルなどの周辺産業が約9000億円となっており、各市場の割合については「23.5%、23,5%、53%」という構造で推移しています。人の医療では2021年度医療費が約44兆円、医療用医薬品が約10兆円であるのに比べると、少し規模が小さいと感じられるかも知れません。

 ただ、薬局や医療用医薬品市場をめぐっては医療費削減政策により、薬価改定も2年に1度から毎年実施され、薬価引き下げで厳しい環境にあると聞いています。

 ペット業界に対しては、「将来的にも成長が保証されている」というイメージを持たれている方も多いのかも知れませんが、実は楽観視できる状況にありません。動物病院の市場規模が緩やかに拡大しているとはいえ、犬の飼育頭数ベースでいえば減少傾向にあるからです。

 テレビCMでチワワが扱われるなどペットブームに沸いた2008年のイヌの飼育頭数は約1300万頭を誇りましたが、21年は約700万頭まで減少し、室内で飼えるネコが約900万頭とイヌを逆転しました(出典:全国犬猫飼育調査)。

 人口減少、高齢化、経済状況の悪化、ペットの飼育環境の規制、飼育費用の増加などが重なり、動物の飼育頭数は今後も減っていくことが予測されています。現に、新規飼育頭数は約45万頭となり、平均年齢15歳から計算しても675万頭まで減少する可能性が高いのです。動物病院は飼育頭数の減少を外来1人当たりの単価を上げることで補完し、なんとか市場拡大しているのが現状です。

動物病院に求められる大改革

 動物病院は人の医療とは異なり自由診療での医療サービスの提供となり、保険適用がなく(民間保険のみ有り)治療費全額が個人負担です。病院の治療費は「言い値」で明確な基準はなく、病院ごとに格差があるのはやむを得ません。だからこそ、飼育者が十分に納得できるよう、対価に見合った獣医療サービスを提供して、動物病院業界が健全に成長していくのが理想の姿です。

 しかし実際は、動物病院の専門化・高度化、ペットの家族化により1人当たりの単価が上昇している側面には、医療機器や薬剤の高騰、人件費の増加などにより治療費を上げざる負えない状況に加え、顧客の納得感が得られない治療費を請求している可能性も否定はできません。

 1回当たりの治療費が高くなれば、経済的な理由で受診を控えるペットの飼育者が増え、その結果として動物病院への医療アクセスに問題が生じ、受診頻度の減少で経営不振に陥る動物病院が増えるのではと懸念しています。

 それよりも、私として一番の懸念は結果、動物達がまともな医療を受けれず、健康を害してしまうことだけは避けたい状況なのです。

 動物病院も大きな改革が必要な時期に来ています。飼育者の居住地にかかわらず、安心・安全に受けられる医療を提供していくために動物病院のグループ化が進んでいます。人と同様に地域医療が一般的ですが、一つのクリニックでは提供できない高度先進医療、高度医療、トータルケア、予防医療までをグループ全体で補う仕組みになりつつあります。また、ペットの総合施設など、ペットサロン、ドックラン、ショップなどが融合しており、集客の側面からも多角化しているというのが現状です。

動物病院のグループ化で若手獣医師を育成

 良質な医療を提供するためには、現場で働く獣医師の満足度を高める必要があります。ただ、動物病院は労働集約型事業であり、経営効率化・収益最大化が最大の課題。若手獣医師の育成まで手が回っていないのが実情です。

 動物医療の高度化・専門化に対応するためには、動物が好きで専門性を突き詰めたいと考える獣医師が十分な収入を得ながら、スキルアップに必要な教育や経験を積める環境を実現させていく必要があり、動物病院のグループ化はその方法論の一つになると考えています。

 グループ化の特徴として、個人病院では獣医師が対応せざるを得なかった経理や人事なども一括して管理し、診療に集中できる環境を整備することを目指しています。

ペットフードで予防医療の定着を

 そしてペットを病気にさせない“予防医療”の定着も目指しています。現時点での、予防医療はワクチン接種やフィラリアという感染症予防、マダニやノミの予防となっております。いずれも命に関わる病気を予防します。また、わんちゃんドックという健康診断もその一つです。私なりに動物病院が動物の病気を治すことに責任を持って展開しているのに対し、ペットの家族化を支える安心・安全で食事管理をサポートできるペットフードがないことに違和感を持っていました。そこで3年前から獣医師の視点に立って高品質なペットフードの開発に関与しています。食こそが最大の予防と考えており、現時点でのペットフードの課題解決をクリアできるペットフードを開発しています。

Profile

佐藤貴紀(さとうたかのり)

佐藤貴紀氏

1978年2月6日生まれ

2002年3月麻布大学獣医学部獣医学科卒業、同4月に西荻動物病院・上石神井動物病院勤務、07年3月にDogdays東京ミッドタウンクリニック副院長、08年5月にFORPETS設立、白金高輪動物病院開設などを経て、18年10月にJVCC動物病院グループ代表取締役、21年9月に株式会社VETICAL設立、VETICAL動物病院(往診専門)開設、同10月からPETOKOTO取締役。東京都獣医師会理事。The vet 南麻布動物病院において循環器科、栄養管理科にて診療を行う。

情報提供のお願い

獣医療にかかわる薬剤師さんからの情報やご意見をお待ちしております。

連絡先:henshu@yakuji.co.jp
※件名に「動物薬剤師」と記入して送信してください

目次



‐AD‐

同じカテゴリーの新着記事

薬剤師 求人・薬剤師 転職・薬剤師 募集はグッピー
HEADLINE NEWS
ヘルスデーニュース‐FDA関連‐
新薬・新製品情報
人事・組織
無季言
社説
企画
訃報
寄稿
新着記事
年月別 全記事一覧
アカウント・RSS
RSSRSS
お知らせ
薬学生向け情報
書籍・電子メディア
書籍 訂正・追加情報
製品・サービス等
薬事日報 NEWSmart
「剤形写真」「患者服薬指導説明文」データライセンス販売
FINE PHOTO DI/FINE PHOTO DI PLUS
新聞速効活用術