ペットフードに付加価値
薬剤師さんは処方箋応需時の調剤や服薬指導だけでなく、病気になる前や疾患の重症化を食い止める予防・健康増進サポートにも業務を拡大していると聞きました。国が政策的に健康寿命の延伸を推進する中、薬剤師の方々が地域の人たちの生活にどう関わっていくのか強い関心を持っています。
なぜかといえば、健康意識の向上を実現させる取り組みは、獣医療にとっても重要な課題だからです。獣医療の発展を考えるとペットを病気にさせない予防医療の発展が不可欠。運動や栄養、食事、健康管理など様々な予防のアプローチがありますが、ペットフードの提供のあるべき姿を考える時期にあります。既に獣医療市場全体の約4分の1をペットフードが占め、その内訳には犬猫用ペットフード、スナック、サプリメント、療法食、小動物用フードが含まれます。犬猫の割合としてネコ用が5割、イヌ用が4割。イヌ用の方が少ない状況です。

ペットフードは発展を遂げてきました。昔は“猫まんま”に代表されるように人が食べているものの残り物を与えていましたが、ドライフード(乾燥食材)や缶詰タイプのペットフード、乾燥加工されていないセミモイストが登場し、幼若・シニア期と成長過程に応じた製品、さらには特定の疾患に合わせて栄養バランスを考えられた製品へと多様化しています。ペットの健康に対する需要が高まり、飼い主の方々がお金をかけるようになっています。
ただ、安心・安全なペットフードが求められるようになる一方で、獣医師の立場から見るとまだまだ課題が山積しています。市販されているドライフード・ペットフードに含まれている食材には、原材料やそのペットフードの産地、製造工程など製造プロセスが消費者に対して十分に情報提供されていないことや、安全基準はあるものの体への影響が懸念される添加物などが使用されている製品が少なくないように映ります。
製品マーケティングに成功したペットフードが選ばれ、本当に安全・安心なペットフードの価値が社会に浸透していないのではないかと思います。日本の大学獣医学部で学ぶ学生は米国ほど整えられた環境で栄養学を勉強していないのが現状です。米国には動物の栄養学専門医の制度がある一方で、日本には存在していません。栄養学の専門医がそもそもいないため、日本で栄養学が発展していない現状があります。
ペットの家族化が叫ばれる時代において、果たしてこのようなペットフードでペットやその飼い主が幸せになれるのか。そんな疑問が徐々に湧いてきた結果、獣医師としてペットフードの開発に携わることを考えました。
ペットに健康相談の場を
私が取締役を務めている「PETOKOTO」が開発したペットフードは人が食べられる“ヒューマングレード”の食材を使っています。確かに市販されているペットフードよりも価格は高いですが、家族のようにペットを大切にしている人のために、無駄な添加物は一切使用せず、産地、製造の可視化をし健康が長く続いてくれればとの思いを持って、フレッシュペットフードを作っています。
1人ひとりのペットオーナーの意向、ペットの体質や体型などを考慮した上で必要な栄養素や食材を考えるオーダーメイドの発想で提供しています。獣医師として、海外の栄養学専門医と共に、責任を持って品質管理を行う安心安全なお勧めフードなのです。
かかりつけ薬局・薬剤師の実現に向けても、薬剤師さんが地域住民1人ひとりの満たされていない医療・健康ニーズに対してオーダーメイドの形で接近していくサービスの発想が必要となるのではないかと想像します。これは獣医療で直面している課題ともある部分で共通しており、大きなチャレンジだと思います。
食事や運動、生活などに関する健康相談の場がもっと増えれば良いと考えています。街の薬局に健康相談拠点としての機能が期待されているように、ペットの食事についても相談場所が必要と考えています。安心・安全なペットフード選びなどを相談する場所はペットショップに限られています。動物病院で相談に対応するのが望ましいですが、居住場所にかかわらず必要なときに適切な助言を受けられるオンライン相談が選択肢の一つになると思います。
食育の重要性を伝えて
そのためには相談に対応できる動物の栄養学に精通した専門家も養成していかなければなりません。薬局に栄養士さんが配置されるケースが増えているようですが、ペットの健康相談にも専門家の需要が見込まれます。
現在、米国栄養学専門医とのネットワークを基盤にPETOKOTOのスタッフが栄養学を学び、ペットオーナーに「こんな病気があるのだけどどんなご飯がいいのか」「この子に合ったご飯をカスタマイズしてほしい」という相談に対応しています。
ペットに対する健康意識を高めてもらうために、食育の重要性をメッセージでもっと発信していきたいと思っています。薬剤師さんがサポートしている患者さんの中にペットを飼われている方がいるかも知れません。OTC医薬品を用いたセルフケア・セルフメディケーションの推進と同様に、ペットの予防医療で連携する将来を一緒に作ることができれば嬉しいです。
Profile
佐藤貴紀(さとうたかのり)

1978年2月6日生まれ
2002年3月麻布大学獣医学部獣医学科卒業、同4月に西荻動物病院・上石神井動物病院勤務、07年3月にDogdays東京ミッドタウンクリニック副院長、08年5月にFORPETS設立、白金高輪動物病院開設などを経て、18年10月にJVCC動物病院グループ代表取締役、21年9月に株式会社VETICAL設立、VETICAL動物病院(往診専門)開設、同10月からPETOKOTO取締役。東京都獣医師会理事。The vet 南麻布動物病院において循環器科、栄養管理科にて診療を行う。
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連絡先:henshu@yakuji.co.jp
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目次
- 【薬剤師に伝えたい 獣医療の現在と未来】第1回 薬剤師、製薬業界の皆さん、はじめまして 獣医師・佐藤貴紀
- 【薬剤師に伝えたい 獣医療の現在と未来】第2回 ペット業界の今 獣医師・佐藤貴紀
- 【薬剤師に伝えたい 獣医療の現在と未来】第3回 獣医師、薬剤師が予防医療へ 獣医師・佐藤貴紀
- 【薬剤師に伝えたい 獣医療の現在と未来】第4回 動物病院における薬剤師ニーズは 獣医師・佐藤貴紀