薬局薬剤師には、地域住民の健康を支援する役割の一つとして、歯科領域で今まで以上にできることがある。歯磨きや入れ歯の清掃で口腔内細菌を除去する口腔ケアの重要性の周知や、歯科医師へとつなぐ受診勧奨だ。
口腔ケアや歯科での十分な治療は、日常の健康的な生活を支えるだけでなく、災害発生時の高齢者の死亡抑制にもつながる可能性がある。
8~9日に西宮市で開かれた日本災害医療薬剤師学会学術大会で講演した歯科医師の足立了平氏(ときわ病院歯科口腔外科部長)は、災害関連死の死因で多いのは高齢者の肺炎と説明した。
災害関連死とは、災害による負傷の悪化や、避難生活等における身体的負担による疾病で死亡することを指す。実際に阪神・淡路大震災や東日本大震災の災害関連死の要因を分析した調査では、肺炎による死亡が多かったという。
なぜ、災害関連死で肺炎が多いのか。災害時に、学校の体育館などの避難所では手洗い場や水そのものが不足する。
こうした環境で生活する高齢者は、歯磨きや入れ歯の清掃を十分に行えなかったり、夜間に入れ歯を外して寝られなかったりして、口腔内の細菌をしっかり除去できないまま過ごしがちだ。
その結果、口腔内で増殖した細菌が夜間の唾液誤嚥等によって肺へと到達し、誤嚥性肺炎が誘発されると考えられている。
高齢になるほど顕著になる免疫力低下も、誤嚥性肺炎の発症に結びついてしまう。自分の口で食事をしっかり食べられるように、歯周病や虫歯を適切に治療して歯を失わないようにしたり、歯が抜ければ入れ歯やインプラント等を入れて食べ物を噛めるようにしたりして口腔機能を維持し、免疫力の低下を防ぐことも大切だ。
近年は災害対策として、災害発生時と日常生活を区別して災害用に準備するのではなく、日常的に使用しているものを災害時にも応用する、備えない防災「フェーズフリー」という考え方が注目を集めている。
足立氏は「平時からの口腔機能の維持が大切ということに尽きる。災害に備えるのではなく、普段から災害を考えた日常を送ることが重要で、日常的な歯科の医療、口腔ケア、入れ歯治療などをしっかり行うことが災害関連死を予防すると考えている」と強調した。
現在、高齢者にとって口腔ケアや歯科治療は誤嚥性肺炎から命を守ることにもつながるという認識は、社会にあまり浸透していない。
歯科医師に比べて、地域の様々な住民との接点を持つ薬局薬剤師が口腔ケアの重要性を幅広く啓発する意義は大きい。地域住民の疾病予防や健康維持を支える役割が薬局に求められる中、歯科領域の啓発活動の推進は、地域における薬局の存在感向上にも役立つだろう。