喘息の治療と治療薬の現状
前回は、アレルギー疾患、特に患者数が多い喘息について、その原因や喘息の症状について述べましたが、今回は喘息の治療の現状についてお話します。
1.現在の喘息の診断と治療のガイドライン
喘息の診療と治療については、国際的には、GINA(The Global Initiative for Asthma)のガイドライン GINA2006、日本では厚生労働省から「喘息予防・管理ガイドライン」「(JGL2006)が出されており、それぞれのガイドラインを参考に診療と治療が行われるよう推奨されています。
両ガイドラインの違いは、JGL2006では、重症度の評価を示し、その評価別に喘息の長期管理における重症度に対応した推奨される段階的薬物療法が示されています。一方、国際的なガイドラインであるGINA2006では、重症度の評価の代わりにコントロールの状態を評価し、コントロール状態の評価を下に治療方法を選択する方式に変更されている点が異なります。特に、JGL2006では初めてステップ2~ステップ4(表1参照)までの喘息の長期管理治療に吸入ステロイド薬が唯一の第1選択薬に推奨されました。
表1に、JGL2006の重症度別の段階的薬物療法を示しました。JGL2006では、喘息症状の頻度と強度、夜間に症状が出る頻度、FEV値を元に、4段階に喘息の重症度が分類分けされ、その重症度に応じて、推奨される段階的な薬物療法が示されています。
表1 喘息の長期管理における重症度に対応した段階的薬物療法(JGL 2006)
この表からも分かりますように、喘息発作時には、短時間で効果が発揮できる吸入型β2作動薬が推奨されており、また、コントローラー(長期管理薬)としては、ステップ2以降吸入ステロイド薬が第一選択薬として推奨されています。しかしながら重症の喘息患者では、特に緊急入院が必要な患者は既に気道が狭くなっているため吸入型のβ2作動薬では速やかに効果が出ない懸念があり、即効性のある気道拡張薬の開発が待たれています。
2. 現在の喘息治療薬
喘息薬としては、炎症を抑制するための薬と気道を拡張して喘息症状を緩和する薬に大別されます。抗炎症薬としては、抗炎症作用を有するステロイド薬と、ロイコトリエン受容体拮抗薬・メディエイター遊離抑制剤・ヒスタミンH1拮抗薬・トロンボキサン阻害剤・Th2サイトカイン(IL4,IL5)阻害薬などのように抗アレルギー作用のある薬があります。一方、気道を拡張して喘息症状を緩和する薬としてはβ2作動薬やテオフィリン、抗コリン薬、エピネフィリン等があります。また、前述しましたように使用の目的により、リリーバー(発作鎮静薬)とコントローラー(長期管理薬)に分けられますが、リリーバーとしては気道の確保が重要なため、β2作動薬等のような気道拡張剤が一般に使用されます。コントローラーとしては、ステロイド薬を基本に、気道拡張薬(徐放性のβ2作動薬やテオフィリンなど)、抗アレルギー薬が重症度により複数使用されています。最近では、ステロイド薬と徐放性β2作動薬の合剤が開発され、その有効性と利便性の高さからコントローラーとして非常に人気を集めています。一方、リリーバーですが、吸引型のβ2作動薬が推奨されていますが、気道が確保されていない重度の喘息患者で患部に薬が到達するまでに時間を要することから、吸入しても効果が小さく、未だ課題を残しています。喘息治療薬のまとめとして、喘息薬を作用別に簡単に表2にまとめました。
連載 日本の創薬技術と世界
- 第9回 アレルギー疾患・喘息(その3)
- 第8回 アレルギー疾患・喘息(その2)
- 第7回 アレルギー疾患(その1)
- 第6回 多発性硬化症(その4)
- 第5回 多発性硬化症(その3)
- 第4回 多発性硬化症(その2)
- 第3回 多発性硬化症(その1)
- 第2回 自己免疫疾患はなぜ起こる
- 第1回 はじめに
- 「日本の創薬技術と世界」連載開始!