この度は、業界のウエブサイトを通じて、我々の目指している「日本の創薬技術を世界へ」について具体的な新薬開発候補品を例にとりお話させていただきたいと思います。現在、日本の医薬品市場(売上ベース:2007年度データ)は世界第2位であるものの、シェアは約9%に過ぎず、北米が約46%、欧州が約31%と欧米合算で日本の8倍以上の市場規模があります。日本の製薬会社もこの巨大な市場を如何に攻略するかが重要なテーマとなっておりますが、欧米市場で自力開発が可能な製薬会社は、大手の一角だけに留まっているのが現状です。しかし、日本発の医薬品のブロックバスターに占める割合は約13%で、売上市場規模と比しても低いものではありません。日本の製薬会社の研究所は非常に優秀であるが、海外で製品化を行っていくのはあまり得意ではないことがご理解いただけると思います。
実際に海外における売上比率が10%を超える製薬会社は、大手4社(武田、第一三共、アステラス、エーザイ)を除くと数社に留まっている状況です。
それでは、なぜ中堅クラスの製薬会社は欧米市場で上手く開発ができていないのでしょうか。「言語」と「商慣習」の差違が大きな壁となっています。当社はこの大きな壁を乗り越えるべく、日本と欧米の医薬品開発、医学に精通した経営陣を揃えております。このように、当社は日本の中堅製薬会社から医薬品候補を導入し、世界のunmet medical needsを満たすべく、欧米での臨床開発を行っているユニークなビジネスモデルの創薬ベンチャーです。
ここに、当社が開発中の多発性硬化症治療薬を例に取ります。詳しくは第3回目以降で蔭山氏より説明させていただきますが、多発性硬化症は特定疾患に指定されている難病ですが、日本の患者数は約1万人と非常に少ない一方、寒いところに住む白人に患者が多く、欧米では80万人を超える患者がいると言われております。このような疾患に対する治療薬開発のインセンティブは、日本の薬品市場を中心にしている中堅クラスの製薬会社にとってはそれほど高いものではありません。当社はこの事例のように日本と世界の医薬品市場の温度差を埋め、橋渡しをする役割を担っております。全10回シリーズで日本と世界の医薬品開発、治療の違いに触れながら、当社注力開発品の多発性硬化症治療薬、喘息治療薬についてまとめていきたいと考えております。読者の皆様、よろしくお付き合いいただけたらと思います。
岡島正恒 メディシノバ・インク東京事務所代表、副社長
大和証券SMBC株式会社事業法人部上席次長を経て2006年9月より現職。大和証券SMBCでは、インベストメントバンカーとして、主にバイオベンチャー、メディア、通信、IT業界を担当。各種ファイナンス、M&A、IPO等において7年以上の経験を持つ。1996年から1999年にかけて、住友キャピタル証券株式会社市場営業部では、事業会社の資金運用ニーズに合わせ、仕組債をオーダーメード組成して販売していた実績を持つ。また、 1991年から1996年にかけては住友銀行(現三井住友銀行)にて、支店業務、システム開発部、証券企画部を歴任。
東京理科大学理工学部経営工学科卒。 社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
連載 日本の創薬技術と世界
- 第9回 アレルギー疾患・喘息(その3)
- 第8回 アレルギー疾患・喘息(その2)
- 第7回 アレルギー疾患(その1)
- 第6回 多発性硬化症(その4)
- 第5回 多発性硬化症(その3)
- 第4回 多発性硬化症(その2)
- 第3回 多発性硬化症(その1)
- 第2回 自己免疫疾患はなぜ起こる
- 第1回 はじめに
- 「日本の創薬技術と世界」連載開始!