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【日本の創薬技術と世界】第2回 自己免疫疾患はなぜ起こる

2009年2月9日 (月)

自己免疫疾患とは

 私たちの身の回りには、細菌やウィルス、花粉、粉塵など生体に悪影響を起こす生物や物質(外敵)に満ち溢れていますが、それを気にせず生きていくことができるのは免疫という自己防御機構が存在するからです。免疫には、自然免疫と獲得免疫がありますが、先ず外敵が生体内に侵入すると、自然免疫系が働き外敵が侵入するのを防ぎます。それでも防御できない場合には、次に獲得免疫系が作動し外敵が生体内に侵入することを防いでいます。

 一般に使われている免疫という言葉は、獲得免疫系を指す場合が多く、外敵(抗原)が侵入すると、その抗原に対応する抗体を産生し、抗原と結合してそれをマクロファージなどの貪食細胞が細胞内に取り込み、分解する生体防御システムです。抗体を作るメカニズムは複雑ですが、その概要は次の通りです。

生体に異物(抗原)が侵入=> 抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞、B細胞など)が抗原を補足
=> 抗原提示細胞:取り込んだ抗原を分解し抗原に特異的な情報(ペプチド)をT細胞(白血球)に提示 => T細胞が活性化・提示細胞から抗原情報の取り込み・B細胞の活性化
=> B細胞が活性化・T細胞の指示を受けて抗体産生細胞に変化 => 抗体を産生

 生体内には侵入してくる「異物」とよく似た物質が多く存在しますが、自分の体内にある物質は「自己」と認識し、自己でない物質が外から侵入すると「異物」と厳密に認識します。免疫系が正常に作動するのは、「自己」と「異物」を識別するからです。ところが、非常にまれですが自己の物質を「異物」と誤認する場合があり、自己の組織や細胞などを誤認することで生じる病気を総じて「自己免疫疾患」と呼んでいます。自己免疫疾患は、年々増加しており、環境の変化やストレスなども影響しているのかもしれません。自己免疫疾患はなぜ起こる?

自己免疫疾患は、上で述べたように、自己の生体成分や細胞を「異物」と誤認識することにより、自己の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。なぜ誤認識されるのかについて詳細はわかっていませんが、「自己」か「異物」かの判断は主にT細胞に委ねられています。抗原提示細胞では、取り込んだ抗原をペプチドにまで分解しT細胞に提示しますが、提示される抗原ペプチドとT細胞の抗原認識受容体との親和性で異物かどうかを判断していると考えられています。自己抗原の場合、T細胞と強く結合するかほとんど結合しないと考えられ、いずれも自己抗原と結合したT細胞はアポトーシスといわれる細胞死を遂げます。一方、外来抗原の場合は、適切な親和性があるため、T細胞は死滅せず活性化されて増殖し、B細胞に抗体の指示を行うと考えられています。

 それではなぜ自己免疫疾患が起こるのでしょう。自己免疫疾患の場合は、? 何らかの原因でT細胞の細胞死が不完全であり、生き残ったT細胞が活性化されB細胞に抗体を作らせる、 ? 自己抗原に対して通常は死滅するべきB細胞が死滅せずに、自己抗原に対する抗体を作る、? ウィルスの侵入などにより自己蛋白質とよく似たペプチド配列を有する蛋白質が体内に入り、誤って自己蛋白質をウィルス蛋白と勘違いしてしまう、? B細胞が異常に増殖し自己抗体を産生する ? 自己抗原として教育されている以外のペプチドが誤って提示される、などが考えられていますが、その詳細はわかっていません。

自己免疫疾患にはどのような病気があるの?

 自己免疫疾患を起こす場合、誤認識された細胞や組織などにより病状が異なります。例えば、中枢神経の髄鞘の蛋白質が「異物」と誤認されると、神経の髄鞘が攻撃され神経系統が破壊され、多発性硬化症という病気が発症します。一般に、自己免疫疾患は、全身にわたり影響がおよぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患に分けられます。全身性自己免疫疾患には、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病があり、臓器特異的疾患には、多発性硬化症や最近増加してきている潰瘍性大腸炎の他、強皮症、ベーチェット病、突発性血小板減少性紫斑症、重症筋無力症など数多くの疾患が知られています。次の表は、難病情報センター特定疾患医療受給証交付件数のうち自己免疫疾患について1974年から2007年までの交付件数を示したものですが、いずれの疾患も年々増加していることを示しています。

 多くの自己免疫疾患は、潜在的に発症し慢性的に経過してやがて自覚症状が出て初めて病院に行き疾患として診断され治療される、といった経過を経ることが多い病気です。そのため、多くの自己免疫疾患の場合、発症してからかなりの時間経過を経て疾患と認識されますので、非常に治りにくく、原因も明確でないことから難病に指定されています。そのため、日本では公費負担の対象として定められている特定疾患に指定されています。また、多くの自己免疫疾患では、女性の患者が多いといわれています。理由は明らかになっていませんがホルモンが関与しているという説もあります。

自己免疫疾患に対する治療法は?

 自己免疫疾患の原因については解明されていないところが多く、治療法も限られています。後述するように関節リウマチではサイトカインを標的とする抗体医薬を含む生物学的製剤に属する新しい薬が開発されてきましたが、多くの自己免疫疾患では有効な治療法が少なく、免疫系を抑制する薬剤や炎症を和らげる抗炎症薬(ステロイドまたは非ステロイド薬など)が第一選択剤として用いられています。どの疾患も発症してから自覚症状や確定診断が出るまでに多くの時間が経過し、治療薬の効果も限定的です。早期診断によりできる限り早く治療を開始すると治療効果が上がることが予想されるため、早期の発症診断方法の確立が待たれています。

 自己免疫疾患の中でも患者数が最も多い疾患は関節リウマチです。日本には、約700100万人の患者がいると想定されていますが、患者数が多いだけに、自己免疫疾患の中では最も治療法が進んでいる疾患です。関節リウマチでは、非ステロイド性抗炎症薬の使用を基盤にして、DMARDsと呼ばれる疾患修飾性抗リウマチ薬が主体です。しかしDMARDsの中でも関節の骨破壊を抑制する薬は少なく、骨破壊抑制効果のあるメトトレキサートを主体に免疫抑制剤等を組み合わせた治療がなされています。1999年に炎症性サイトカイン(TNFα)に対する抗体医薬(インフリキシマブ;レミケード)が開発され、今までにない強力な抗炎症性と骨破壊抑制効果をもつことがわかりました。その後、続々と抗炎症性サイトカイン(TNFαのほかIL6、IL-1など)を標的した抗体医薬などの生物学的製剤が開発されており、患者さんたちに福音を与えています。

 多発性硬化症の場合も、インターフェロンβに有効性がみられ、また、抗体医薬も登場してきています。

 自己免疫疾患には共通した発症メカニズムがあり、ある自己免疫疾患に有望な治療薬は他の自己免疫疾患にも適応拡大される可能性が大きく、今後、多くの難病にも有望な治療法が開発されていくことと期待されています。

連載 日本の創薬技術と世界




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