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【日本の創薬技術と世界】第5回 多発性硬化症(その3)

2009年5月18日 (月)

多発性硬化症の新しい薬の登場

 前回は、多発性硬化症について、治療の現状やその課題についてお話しました。今回は、現在の治療薬の課題と、それを克服するための新しい治療薬の開発状況についてお話します。

1.多発性硬化症治療薬の課題

 多発性硬化症にはその病状から、再発と寛解を繰り返す再発寛解型(RR-MS:Relapsing Remitting MS)と呼ばれる症状と、再発と寛解を繰り返しながら徐々に病状が進行する病状(二次進行型;Secondary Progressive MS:SP-MS型)、初期から長期にわたり病状が持続進行する病状(一次性進行型(Primary Progressive MS:PP-MS型)に分けられますが、インターフェロンβの登場により、全体の55%を占めるRR-MSについては、多発性硬化症の再発を抑制し寛解期を延長することが可能になりました。これまで有効な治療薬がありませんでしたので、有意に多発性硬化症の再発を改善するインターフェロンβの登場は画期的なものでした。

 しかし全体の55%を占めるRR-MS型の患者にとっては、正に福音となる薬が登場したことになりますが、インターフェロンβでは、一次進行型や二次進行型の多発性硬化症など、重篤な病状に進行する多発性硬化症には効果がありません。インターフェロンの適応もRR-MSに限られています。また、RR-MS型の患者の中にもインターフェロンβに無効な患者がいることも問題です。

 最近、タイサブリ(Tysabri:ナタリズマブ)と呼ばれる抗体医薬が登場してきました。この薬は、α4インテグリンという接着因子を標的としたモノクローナル抗体医薬です。タイサブリは、インターフェロンβを凌ぐ高い有効性が認められ注目されましたが、残念なことにPML(進行性多病巣性白質脳症)が発症する副作用が報告され複数の死者が出ています。特に、作用機序の異なるインターフェロンβとの併用により、有効率が高まることが期待されていましたが、副作用の取り扱いで、タイサブリを許可するかどうか大きな議論を呼んでいます。

 多発性硬化症の多くは、この病気そのもので死に至る病気ではありませんが、慢性的に症状が出るため、長期間にわたって治療薬を飲みつづける必要があります。ABCR(インターフェロンβ(Abonex(A)・Betaseron(B)・Rebif(R))と免疫抑制効果のあるCopaxone(C)の頭文字)と呼ばれる第一選択薬は、いずれも注射剤で、より簡便に服用できる経口剤の登場が期待されています。

 進行性の多発性硬化症に対して治療効果が認められているのは免疫抑制剤のシクロホスファミドですが、シクロホスファミドは強い免疫抑制剤であり、白血球減少、脱毛その他の副作用が強く、慎重な取り扱いが必要です。多発性硬化症は、神経を保護している神経髄鞘の蛋白質を自己蛋白以外の異物と判断する自己免疫疾患ですので、進行性の多発性硬化症に対しては免疫抑制剤の使用が有効であると考えられますが、長期に免疫抑制効果のある薬を使用し続けることについては、やはり懸念があります。むしろ、自己免疫により攻撃されている神経を保護することにより、多発性硬化症が治療できれば、そのほうが望ましいと考えられます。

 以前に述べましたように、多発性硬化症は長い潜伏期間があります。自覚症状が出る前に既に脳の部位のMRI所見では病変部の異常が見出されており、この時点では、破壊される神経とそれを修復する機能がしのぎあっている状態と考えられます。もし、適切なバイオマーカーなどが見出され、通常の血液診断などで早期治療が可能であれば、治療は飛躍的に向上すると考えられます。そのために、身体症状が現れない潜伏期を検出する診断方法の開発が望まれています。

 以上、現在の治療薬の課題を整理すると、次のようになると考えられます。

 1.SP-MSやPP-MSなど進行性多発硬化症に有効で安全な薬
 2.インターフェロンβに無効な患者に有効な再発抑制・寛解期延長が可能な安全な薬
 3.経口治療薬
 4.免疫抑制による治療薬よりも神経保護作用のある薬
 5.潜伏期の病状を把握できる診断方法の開発と潜伏期に服用できる予防薬の開発

2.新しい治療薬の開発の現状

(1) 副作用の少ない抗体医薬の開発

 抗体医薬のタイサブリ(Tysabri:ナタリズマブ)が多発性硬化症の治療薬として登場し、非常に高い有効性を示しましたが、PMLという副作用で複数の死亡事例が報告されました。タイサブリが高い有効性を示したことから、抗体医薬の開発熱が高まっています。タイサブリと同様の標的(α4β7/α4β1インテグリン)を標的とする抗体医薬では、田辺製薬がT-0047という経口投与が可能な抗体を創製し、GSKと共同で開発を進めていますが、Taysabriと同系の抗体医薬であることからPMLの副作用の可能性を否定できず、今後の開発には懸念が残ります。

 またタイサブリと異なる標的を持つ抗体医薬の開発も行われています。その一つがアレムツズマブ(Bayer :Alemtuzumab)という抗体医薬で、リンパ球や単球上のCD52を標的とするモノクローナル抗体です。第Ⅲ相臨床試験の結果では、インターフェロンβ(Rebif)よりも高い有効性が報告されています。同様に、ダクリズマブ(Biogen Idec社とPDL BioPharma社:Daclitumab)という抗体医薬も開発中で、多発性硬化症を対象にしたの第Ⅱ相臨床試験で目的の効果を確認しています。一方、CD20モノクローナル抗体リツキサン(Rituxan)という抗体医薬が開発されていますが、第Ⅱ相臨床試験では有効性が認められたものの大規模で実施された第Ⅲ相臨床試験では期待されたような結果が得られていないと報告されています。高い有効性が期待され、また、T-0047のような経口薬が可能になる可能性があり、大いに期待できますが、大変高価な医薬品になることが課題です。

(2) 慢性進行型多発硬化症治療への挑戦

 現在の治療薬は全て再発・寛解型(RR-MS)を対象とした治療薬です。先に述べましたように多発性硬化症では一次進行性や二次進行性多発性硬化症患者がそれぞれ10%、35%存在しますが、この病状の患者には有効な薬がありません。現在、BioMS Medical社が、二次性進行型多発性硬化症(secondary progressive multiple sclerosis)の治療薬としてDirucotide という薬の開発を進めており(Eli Lilly社にライセンスアウト)、アメリカFDAからFast Track(優先承認審査)に指定されています。

(3) 経口剤の開発

 最近注目される多発性硬化症治療候補薬は、FTY720(fingolimod:旧吉富製薬が創製、Novartisが開発)です。FTY720の特徴は、経口服用が可能な多発性硬化症治療薬であり、その作用機序が血液・リンパ液中に存在する免疫リンパ球をリンパ節に捕集し、免疫抑制効果により多発性硬化症の再発を遅らせ寛解期間を延長するとされています。昨年末の臨床試験の結果では、低用量と常用量において高い有効性が示されましたが、用量関係に課題があり、低用量のほうが高用量よりも高い結果となりました。この問題を解決すれば、ABCRに次ぐ、次世代の経口治療薬となり、ABCRを凌ぐ薬に成長するかもしれませんが、FTY-720が免疫抑制剤であることは、長期に服用した場合どのような副作用が現れるのか予測ができません。初めての経口剤として注目されていますが、全く懸念材料がないわけではありません。

 その他、ワクチン(Tovaxin(Opexa))の開発や、核酸医薬の開発(Acorda Therapeutics社:Fampridine-SR)などが報告されており、再発寛解型の多発性硬化症にはそれぞれ有効性が証明されています。安全性が確認されれば、標的の異なる治療薬として、現在ある治療薬とともに使用される可能性があると考えられます。

 現在、メディシノバで開発している多発性硬化症治療薬MN-166は、神経保護作用によりRR-MSの再発を延長し寛解期間を延長できる薬です。MN-166は経口剤で、ケタスという商品名で気管支喘息治療薬および脳梗塞治療薬として広く長期間使用されており、安全性については既に実証済みです。多発性硬化症の有効性については、第Ⅱ相臨床試験の結果ではインターフェロンβなどに匹敵する有効性が示されています。特に、第Ⅱ相臨床試験において、最初の再発までの経過時間および全く再発しなかった患者の割合が著しく増加したほか、脳重量の損失の明らかに減少していることが見出されています。神経を保護することにより、再発の防止と脳の萎縮を減少できる可能があり、経口薬で、安全に長期服用可能な薬の開発が進んでいます。

 最後に、多発性硬化症は、利便性の高い経口薬が、現在の注射薬に代わり主流になる時代がくると考えられます。FTY720が承認されれば経口薬として多く利用されると思われます。次の目標は、多発性硬化症が長期間の治療を要する病気なので、安心して服用できる経口薬が求められることになります。また、異なった作用機序を持つ薬の併用も多くなると思われ、併用しても安全な薬も次世代の多発性硬化症治療薬の姿だと思われます。さらに、一次・二次の進行性多発性硬化症にも有効な薬が開発されてくることが望まれています。

連載 日本の創薬技術と世界




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