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【DDSの現状と展開】第4回 DDSとバイオ製剤(1) ―活性たんぱくの化学修飾技術―

2009年02月26日 (木)

1.はじめに

 連載第3回の「高分子量生理活性物質の登場」で取り上げましたが、近年、バイオテクノロジーによって生体内物質である種々のたん白質を大量生産することが可能となり、めざましい薬効を示すものが出てきました。しかし、高分子のたん白質は投与が注射に限られ、多くは連日投与しなければならないため、入院を含めて患者の負担・苦痛が問題となっています。また、製造原価が化学合成品と比較して割高になるため、できれば少ない用量で尚かつ週1回程度の投与で、効率よく薬効を発揮させることが望まれます。これらを実現するために、DDSが応用されています。

 この回ではリポ化製剤やパッチ剤等の製剤化技術によるDDSではなく、原薬を化学修飾することにより血中の安定性などの付加価値を付けるDDSに焦点を当てて説明します。

2.活性たん白質の化学修飾技術

 医薬品開発でDDSの概念が提唱されてから40年ばかりの年月が経ちますが、DDS技術の活用が、主に下記に示す3つの要因から再び脚光を浴びています。その結果、DDSが医薬品開発に大きな比重を占めつつあります。

1) PEG修飾

 活性たん白質の血中濃度を長期持続させる代表的な手法は、ポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体:図1)による修飾です。PEG修飾により腎臓からの排泄を遅延させることにより血中での滞留時間を延長し、投与量・投与回数を減らすことができます。代表的なものはウイルス性肝炎に使用されるPEG-IFN (ペグ化インターフェロン)で、PEGによる修飾で半減期は5時間から30時間へ延長させた結果、用法は連日筋注から週1回皮下注へと改善されました。

 また、ヒトにとって異種たん白質を投与する際、血中濃度持続に加えて免疫原性及び抗原性を減ずる目的でPEG修飾する場合があります。代表的なものは白血病に使用されるPEGアスパラギナーゼ(国内未承認)で、アレルギー症状等の副作用が発現しないようにPEG化されています。

 なお、PEG修飾にも欠点があります。修飾したPEGが邪魔となってたん白質本来の機能が損なわれることです。そのため、in vitro活性が50%減少することもあります。すなわち、半減期等を含めた総合的なin vivo活性を、修飾するPEGの長さや本数を調節することによってどこに設定するかが開発企業のknow-howとなります。

 PEG修飾は欠点があるものの応用の範囲が広く、血中濃度を持続させる目的ならば非常に有用であるため、今後もたん白質の修飾には応用され続けるものと思われます。

図 1 PEG誘導体の構造式
yakuji_photo
2)レシチン修飾

 生体内の余分な活性酸素は、多くの疾患の悪化因子となるため、特に慢性の炎症性疾患については可能な限り消去するべきと考えられてきました。その活性酸素の消去作用があるSOD (スーパーオキシド不均化酵素)は約20年前に遺伝子組換による製造が可能になりましたが、IFNやG-CSFでは非修飾のままで医薬品になったのに対し、SODは半減期が5010分と非常に短いため、開発に成功しませんでした。PEG修飾をしたSODも開発されてきましたが、半減期の延長には成功したものの、実際の炎症の場である細胞膜付近へのターゲティング性がないため、期待した効果がみられませんでした。

 SODは水溶性のため、PGE1のようなリポ製剤への応用も困難でしたが、リポ製剤の外側を囲むレシチン誘導体(phosphatidylcholine, PC誘導体:図2)をSODへ化学修飾することにより半減期を20時間へと延長し、ターゲットである細胞表面への親和性を上げることに成功しました(PC-SOD:図3)。PEG修飾と同様、レシチンの修飾によりSODのin vitro活性は若干低下しましたが、半減期の延長とPEGにはない細胞親和性の向上により、結果的にin vivo活性は10001000倍上昇しました。

 現在PC-SODは、LTTバイオファーマが臨床開発を行っています。

図2 レシチン誘導体の構造式
yakuji_photo
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図3 PC-SODの分子モデル
二量体のSOD 1分子あたりレシチン誘導体が4分子結合
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3.終わりに

 以上、紹介したたん白質の修飾は新規物質となり、開発のハードルは新薬と変わらないように思われますが、投与後の効果や副作用を容易に類推することが出来、開発成功の確率は高くなります。また、これからバイオシミラーが台頭しつつある中、優位性を保つためにも化学修飾によるDDS技術は特に有用であると思われます。

 次回(連載第5回)は、「DDSとバイオ製剤(2)  ターゲット・徐放製剤の作製技術」を取り上げます。

連載 DDSの現状と展開



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