1.はじめに
DDSとは、前回(連載第1回「DDSとは何か?」)述べましたように、薬物の投与方法、形態を工夫し、体内動態を精密に制御することにより、薬物を特異的部位へ時間的制御をしながら望むべき濃度・パターンで送達させようとする技術、システムであり、それゆえに製剤技術の粋を集約した創薬システムでもあります。
より簡単に言いますと、「DDSとは医薬品を必要な場所に、必要な時間、必要な量だけ送達する技術」、となります。
このシステムにより、薬物量や投与回数の軽減が可能になり、その結果、薬の効用を高める一方で副作用を軽減するという理想的な薬物投与が可能となるのです。
2.DDSの3大テクノロジー
このような理想的な薬物投与を可能にするDDSの三大テクノロジーとして、次の3つの基幹技術が現在知られています。
1)ターゲッティング(標的指向型DDS)
疾患の病変部位へ集中的に薬物を到達させる技術です。以下の2つに分類されます。
・受動的ターゲティング:薬物運搬体(キャリアー)の粒子径や親水性などの物理化学的性質を利用して薬物の体内動態を制御する方法です。
・能動的ターゲティング:薬物運搬体に、特殊な仕組み(たとえば、抗体や糖鎖などを結合したキャリアーを利用)を付け加えて標的組織への指向性を制御する方法です。その特性から「ミサイルドラッグ」と呼ばれることもあります。
2)放出制御〔徐放〕(放出制御型DDS)
製剤からの薬物放出をコントロールする技術です。薬物が病変部位に到達した時点で、薬物を放出する必要がありますが、薬物が溶け出すタイミングを投与してから経過時間によってコントロールすることを「放出制御」といいます。目標とする病変部位で、薬効が現れる濃度以上、毒性(副作用)が現れる濃度以下の必要十分量の薬物を取り込めることが薬物の効果を高める上で重要な要素になります。
放出制御には主に次の2つの方法があります。
・リザーバー(拡散制御膜)型:薬物を包む高分子膜の薬物透過性により薬物透過量を制御する方法です。
・モノリシック型:薬物を高分子あるいは無機物マトリックス中に分散させることにより薬物の放出を制御する方法です。
3)バリアー(障壁)の通過・吸収促進(吸収制御型DDS)
皮膚・粘膜などからの薬物の吸収改善や血液脳関門通過の技術です。
上述した3つのDDS技術を単独あるいはいくつか組み合わせることにより、これまでほとんど例のない性質を持つ様々な製剤の開発が可能になります。その結果創製されたDDS製剤は、難治性希少疾患に対する治療の可能性を切り拓くと共に、薬物本来の有効性の増強と副作用の軽減を実現し、また、治療の利便性や患者QOLの向上に大きく寄与するなど薬物治療の面から医療の革新をもたらします。
次回(連載第3回)は、「DDSと医薬開発システム」について取り上げます。
連載 DDSの現状と展開
- 第10回 「DDSの将来像」
- 第9回 「DDSの医療以外への応用」
- 第8回 「医療現場で活躍するDDS製剤」
- 第7回 「エコ技術としてのDDS」
- 第6回 「DDSとがん治療」
- 第5回 DDSとバイオ製剤(2) ―ターゲット・徐放製剤の作製技術―
- 第4回 DDSとバイオ製剤(1) ―活性たんぱくの化学修飾技術―
- 第3回 「DDSと医薬開発システム」
- 第2回 「DDSの3大テクノロジー」
- 第1回 「DDSとは何か?」
- 「DDSの現状と展開」連載開始!