1.はじめに
薬を飲んだ時、実際に患部にまでたどり着いて効き目を発揮するのは、飲んだ量のわずか100分の101万分の1程度に過ぎません。薬の成分の中には生体内で速やかに分解されて効力がなくなるものもあります。あるいは、必要のない部位に作用し副作用を引き起こすこともあります。薬の持つこのような欠点を改善する技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム;薬物送達システム)なのです。(「表1 DDSの定義と分類」参照)
DDSは、薬の投与部位から作用発現部位に至るまで、薬物の体内動態を1つのシステムとして捉え制御することにより、薬の効用を高める一方で薬の量や投与回数、副作用を軽減し、患者のQOL向上に大きく貢献します。さらに、これまで治癒が困難とされてきた様々な疾病、難治性希少疾患の治療にも活路を開くものとして大きな期待が寄せられています。DDSは、薬物に新たな生命と役割を与え薬物治療の可能性を切り拓く究極の創薬システムなのです。
2.DDS製剤開発の歴史と医薬品市場
DDSの製剤開発の歴史は、Alza社のA.Zaffaroniが初めてDDS概念の提唱をしてから約40年の歳月が流れようとしています。この間に米国ではDDS製剤の開発・実用化に初めて成功し、1974年に患者への歴史的投与が行われています。
1980年代に入ると、DDSに関する技術や知見が集積されることに伴い、DDS製剤の開発・実用化が、海外のほかわが国でも着実に進展し、数多くのDDS製剤が医療の場で使用されて今日にいたっています。(「図1 DDS製剤開発の歴史」参照)
因みに、Technology Catalyst Internationalの統計資料によると、2003年のDDS製剤の世界市場は592億米ドル(円換算で約6兆円)で、全世界の医薬品市場(4,663億米ドル)の12.7%に相当すると報告されています。DDS製剤市場がここ数年二桁成長が続いており、2008年には10兆円を超える巨大な市場規模に拡大すると予測されています。
3.DDS技術の期待効果
上述したように市場拡大が続くDDS製剤に対する期待は大きく、DDS技術によって以下のような様々な効果・効用がもたらされています。
(1)薬効がより的確なものとなり、投与量の減量や適応拡大が期待される。(薬効の増強)
(2)特定の薬理作用だけを取り出すことや、特定の薬理作用の発現を押さえ込むことができる。(薬理作用の分離)
(3)副作用や製剤上の理由で開発を断念した化合物を薬として復活することができる。(副作用の軽減、安全性の向上)
(4)治療の利便性向上や患者負担の軽減・QOLの向上に貢献する。(使用性の改善)
(5)製品のライフサイクル延長、医療費の軽減が可能となる。(事業性・経済性の向上)
(6)新薬開発のリスク増大に対して、DDSによる製剤技術は創薬の成功確率を高める。(開発リスクの低減)
(7)新しく登場した、たんぱく、ペプチド、核酸などの薬物の安定性、膜透過性等の問題解決の手段となる。(バイオ製剤技術への応用・実用化)
次回(連載第2回)は、「DDSの3大テクノロジー」について取り上げます。
以上
連載 DDSの現状と展開
- 第10回 「DDSの将来像」
- 第9回 「DDSの医療以外への応用」
- 第8回 「医療現場で活躍するDDS製剤」
- 第7回 「エコ技術としてのDDS」
- 第6回 「DDSとがん治療」
- 第5回 DDSとバイオ製剤(2) ―ターゲット・徐放製剤の作製技術―
- 第4回 DDSとバイオ製剤(1) ―活性たんぱくの化学修飾技術―
- 第3回 「DDSと医薬開発システム」
- 第2回 「DDSの3大テクノロジー」
- 第1回 「DDSとは何か?」
- 「DDSの現状と展開」連載開始!