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うつ病医療で一層の職能発揮を

2013年05月17日 (金)

 わが国の自殺者数は、1998年から14年連続で年間3万人を突破していた。さらに、その40%程度が働き盛りの人が亡くなっていることが、大きな社会問題になっている。

 自殺とうつ病は相関関係が強く、うつ病患者が減れば自殺者数の減少につながる。だが、日本人の15人に1人は生涯に一度はうつ病に罹患する可能性がある。性別では男性より女性がやや多く、年代別では20~30歳代で内因性うつのピークにある。65歳以上では、初老期に入る前の退職時期に増加傾向が強い。

 うつ病の発症は、社会的・文化的・経済的な要因が背景にある。そこで、国は地域における自殺対策を強化するため、09年から都道府県に当面3年間の対策に係わる「地域自殺対策緊急強化基金(うつ病医療体制強化事業)」を造成した。

 同基金は、自殺者数の増加と厳しい経済情勢を踏まえたもので、各都道府県では、住民への啓発、相談体制の整備、人材養成などの事業を推進している。

 年間3万人を超える自殺者のうち、うつ病やアルコール依存症などの精神疾患患者が大半を占めていることから、うつ病に対する医療等の支援体制強化が不可欠だ。

 国際的な比較においても、わが国の向精神薬投与は多剤併用が多く、とりわけ同剤の過量服薬を防ぐ薬剤師の役割はより重要性を増している。こうした状況に対応するため、同基金事業の一環として地域薬剤師会に委託する形で「うつ病医療体制強化研修会」を開いている都道府県も少なくない。

 同研修会でも指摘されているが、うつ病医療体制における薬剤師の役割は、向精神薬の過量服薬防止だけでなく、自殺に対する予防、気づきが重要となる。今後は、服薬指導時にこれらの点にどこまで介入できるかが大きなポイントになる。

 保険薬局の薬剤師は、患者の情報や状態をキャッチしやすい職域にいるため、医療情報のまとめ役として、かかりつけ医と精神科医をつなぐ役割を果たすことも忘れてはならない。

 また、男性更年期を要因とするうつの増加にも留意する必要がある。勃起不全や筋力の低下を伴ううつ患者は男性更年期と考えて泌尿器科へ、うつ状態のみ強い患者は精神科へと的確な受診勧奨を行う役割が薬局薬剤師に要望されているためだ。

 同基金を活用した各種事業の取り組みが寄与して、昨年の自殺者数は2万8000人程度に減少した。

 「自殺やうつ病がなくなれば、単年で約2兆7000億円の経済効果がある」という経済学的便益の類推額も報告されており、社会経済的にもさらなる自殺者の減少が望まれる。

 うつ病医療体制強化はまだ緒についたばかりだが、薬剤師にはうつ病のゲートキーパーとして、さらなる職能を発揮してもらいたい。



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