日本医薬品卸売業連合会専務理事 山田耕蔵
医薬品卸売業界の1年を振り返り、今後の対応の方向を考えてみたい。
紙幅の都合上、未妥結減算、薬価の毎年改定、流通改善と卸経営の3項目に絞らせていただく。
(1)未妥結減算
2014年4月の診療報酬改定において、未妥結減算ルールが導入された。
未妥結減算ルールの導入は、薬価調査の信頼性確保という医療保険制度の根幹に関わる課題である。このため、薬卸連としては、未妥結減算の対象となる保険医療機関および保険薬局が減算を受けるようなことのないよう、会員会社が一丸となって最大限の努力を払った。
具体的には、全国各地の200床以上の保険医療機関(約2700軒)および保険薬局(約5万5000軒)に繰り返し制度の周知徹底を図ると共に、人的資源を最優先で投入して早期妥結を念頭に置いた価格交渉を精力的に行い、その結果を妥結率の根拠となる資料として提供した。こうした現場における尋常ならざる取り組みの結果もあり、9月末の妥結率が大幅に向上した。
価格の遡及値引きがないことを確認できたことは流通改善につながるものと評価できるが、早期妥結のために従来以上に厳しい交渉をせざるを得ないケースや単品単価交渉が行いづらいケースも少なくなく、残念ながら真の流通改善にはつながっていない。9月までの価格交渉が優先され、多大の労力を費やしたものの、単品単価取引はほとんど進展しなかった。また、特定の卸、品目、期間のみ妥結する部分妥結の動きも出てきた。
今後は、未妥結減算ルールの趣旨が徹底されると共に、単品単価取引の推進等が望まれる。薬卸連としては、未妥結減算の対象となる薬局の範囲の限定や膨大な事務負担を要する「妥結率の根拠となる資料」の簡素化についても求めていきたい。
(2)薬価の毎年改定
14年5月末に財政制度審議会が薬価の毎年改定について取り上げ、6月には経済財政諮問会議においてこの問題について議論が行われた。
薬卸連としては、「薬価を毎年改定することには断固反対、取引先の医薬品関係団体がこぞって反対する状況下で薬価調査に協力することは困難」との会長声明を発表した。関係団体がこぞって強く反対した結果、骨太の方針では、「薬価調査・薬価改定のあり方について、診療報酬本体への影響にも留意しつつ、その頻度を含めて検討する」との文言で閣議決定され、毎年改定を明文化することは回避された。
その後、未妥結減算ルールの導入の結果、9月末の妥結率が9割を超える高い水準になることがはっきりし、薬価の毎年改定ができるのではないかとの議論が行われることが懸念された。
このため、薬卸連としては、妥結率の大幅な向上は、現場における尋常ならざる取り組みの結果であり、真の流通改善にもつながっていないとして、薬価の毎年改定の可否を議論する上ではこうした状況を十分踏まえるよう厚生労働大臣宛に要望書を提出した。
今後、薬価の毎年改定の問題については、中医協などで議論が行われると見込まれるが、薬価の毎年改定は、流通改善を後退させかねず、医薬品市場に大きな影響を与えるものである。医薬品市場の急激な変化は、医薬品流通の安定を損なうばかりでなく医薬品の供給体制全体に重大な悪影響を及ぼす恐れがある。また、常時、価格交渉などに多大の労力を費やすことになり、MSの情報収集・提供機能などの通常業務に支障が生ずる。さらに、災害時や感染症発生時などの緊急時対応にも支障を生じかねない。
本来、公的医療保険制度のもとで、診療報酬と薬価は不可分の関係にあり、薬価改定は診療報酬改定と同時に行うべきとの基本的考えに立って、薬価の毎年改定には引き続き強く反対していきたい。
(3)流通改善と卸経営
14年4月に診療報酬改定・薬価改定が行われ、後発品の使用促進のための措置や未妥結減算の仕組みが導入された。同時に、消費税が5%から8%に引き上げられた。
このような大きな環境変化の中で、流通改善の状況を見ると、既に述べたように、未妥結減算の導入により、未妥結・仮納入については大きく前進したものの、単品単価交渉、売差マイナスについてはほとんど進展が見られなかった。また、新たに部分妥結の動きが出てきたことが憂慮される。
卸経営について見ると、新薬創出等加算品と後発品のシェアが拡大する中、MS活動を早期妥結に向けての価格交渉や表示カルテルの説明などに集中させた結果、卸の営業利益率は低下し、厳しい決算になった。
今後は、未妥結減算ルールのもとでも単品単価取引を進展させるなどの流通改善への取り組みを強化すると共に、後発品の使用促進などによる急速なカテゴリーチェンジへの対応を強化していく必要がある。来年は、卸機能が適切に評価され、真の流通改革に向けて大きな一歩を踏み出す年にしたい。