厚生労働省が「医薬品産業強化総合戦略」をまとめた。後発品の数量8割への引き上げに伴う緊急的措置との位置づけだが、国が新薬メーカーに期待する役割を、「グローバルに展開できる革新的新薬の創出」と明確に示した。国際競争に勝てる企業となるため、M&A等による事業規模の拡大を視野に入れるべきとする一方、今後一定の期間、新薬が出せなかったメーカーには事業転換を迫った。
つまり、新薬メーカーを名乗るからには、規模を拡大するなど、どんな形であれ、グローバルに展開できる革新的新薬の創出ができなければ、別の道を考えなさいということである。ただ、これは今になって急浮上してきた話ではない。これまでの医薬品産業ビジョンでも、国際競争力の強化という同じ問題意識が示されていたし、2010年に新薬創出等加算が試行導入された時点で、長期収載品に依存した経営はいずれ立ち行かなくなることも想定できた。
総合戦略でも「日本の医薬品市場の構造変化は予見可能だった」としているが、「骨太方針で決定したほどの後発品の飛躍的加速までは想定が困難だった」との分析も盛り込み、だからこそ総合戦略が必要だったと強調している。
しかし、なぜこのような状況になったのかを突き詰めれば、本質的には後発品の数量拡大が想定を超えたことではなく、多くの国内メーカーが“予見可能だった”将来への対応を真剣に考えていたかどうかということではないか。07年のビジョンから8年、新薬創出等加算の試行導入から5年。この間、バイオ医薬品をめぐる大型買収、新薬メーカーによる後発品事業への相次ぐ参入があり、最近は事業多角化から医療用医薬品への回帰が始まっており、グローバルの潮流は目まぐるしく変化してきた。
翻って国内メーカーは、目立った動きはなかった。結果的にほとんど長期収載品のような製品も新薬創出加算の対象となったため、多くのメーカーは新薬を出せなくても好業績を確保でき、危機感は乏しかったように映る。そして14年度薬価制度改革の長期収載品の追加引き下げを契機に、追い込まれる形で国に事業転換を迫られることになってしまった。
薬価制度に守られ、追い込まれるとは皮肉だが、それが今の日本の現状であり、長期収載品依存から脱することができず、グローバル対応が遅れたことの代償は大きいと思われる。規模を拡大するにしても単に企業同士が合併すればいいという問題ではなく、強い技術や得意領域などを持ち、しかも競争力がなければ協議の糸口も掴みづらいだろう。
そうなると、競争力のないメーカーが残り、業界再編も進まず、国内医薬品市場の縮小というシナリオに進んでいく可能性もある。それでも日本企業の中にはキラリと光る創薬力がある。フルバリューチェーンを抱えていた贅肉をそぎ落とし、思い切ってエッジの効いた創薬ベンチャー型の企業に生まれ変わり、革新的新薬を志向する事業転換もあっていいかもしれない。