中央社会保険医療協議会がまとめた2016年度の診療報酬改定案が、塩崎恭久厚労相に答申された。今回の改定は、地域包括ケア推進の観点から、かかりつけ機能を果たさなければ、報酬が下がる仕組みになっているのが特徴だ。
昨年、前期高齢者となった団塊の世代は、2025年には後期高齢者となり、2035年に85歳を超える。そこで厚労省は、去年の10月に20年先の医療ニーズを見据えた「患者のための薬局ビジョン―門前からかかりつけへ、そして地域へ」を提言した。
現在、薬局機能が門前からかかりつけに移行する重要な局面を迎えているが、診療報酬改定もその背景に対応する内容となった。
大型門前薬局の評価の見直しと、「かかりつけ薬剤師指導料」(70点)の新設は、まさにその象徴と言えるだろう。国民からの保険料や税金、自己負担金で賄われている大型薬局グループの高額な役員報酬や高率配当は、今回の診療報酬改定の大きなターゲットとなった。
全体の処方箋受付が月4万回以上の大型チェーン薬局で、特定の医療機関からの処方箋が90%を超えた場合などに適用される「調剤基本料3」(20点)の新設は、門前からかかりつけに向けて一定の成果を上げるものと思われる。
一方、かかりつけ機能を果たす薬剤師・薬局を評価する「かかりつけ薬剤師指導料」の新設は、服薬情報の一元的な管理を主目的としているのは言うまでもない。
かかりつけ薬剤師が、患者から同意を得て、他の薬局で処方された薬剤も把握し、医師に相談して重複投与を回避する試みは、副作用軽減と共に減薬分の薬剤費も下がり、患者にとってのメリットも大きい。
とはいえ、患者にかかりつけ薬剤師として署名をもらうまでには、大変な苦労を要すると思われる。いかにして患者に役立つ薬剤師職能をどのように発揮するかが、信頼を勝ち取るための大きなポイントになるだろう。
また、同加算の算定要件の一つに、「同じ薬局に週32時間以上勤務し、薬局に6カ月以上在籍する」があり、端的に言えば「パート薬剤師はダメ」を意味する。
薬剤師のパート勤務は、ブラック企業の温床になるとの印象が強い。だが、実際は、雇い主よりも、女性勤務者の方でパートを希望するケースが多いと聞く。
薬局は、アベノミクスが提唱する「女性活用」のための職場の一つに、ピタリと当てはまると言っても過言ではない。男性よりも出産や育児で休暇を取る頻度が高い女性薬剤師にとって、パートが理想的な勤務体系になっていることへの配慮も忘れてはならないと思われる。
同じく新設された「かかりつけ薬剤師包括管理料」(270点)は、医科で地域包括診療料、地域包括診療加算などが算定された患者を対象とする。今回、特に認知症に重きが置かれているため、医師と共に認知症対策に尽力してかかりつけ薬局の評価につなげてもらいたい。
現在、40兆円を超す医療費は、25年には50兆円を突破する。こうした厳しい環境の中、薬局・薬剤師が生き残るには、患者からかかりつけ薬局として認めてもらう以外に手立てはない。
今回のかかりつけ機能を重視した診療報酬改定を契機に、そのニーズに応えるための薬剤師職能をきっちりと確立してほしい。医療を取り巻く社会背景の変化は、“街の薬局”にとって大きなチャンスでもある。