謹賀新年。新しい年を迎えるにあたりまずは、この1年が医薬品関連業界に携わる人たちにとって幸多き年になるよう祈念したい。
昨年を振り返ると、記憶に残る出来事としては4月の熊本地震だ。一連の地震活動で震度7の揺れが2回起きたのは気象庁の観測史上初めてで、自然災害の脅威を改めて痛感した。そして夏のリオオリンピックでは、日本は史上最多の41個のメダルを獲得。2020年の東京オリンピックに弾みをつけた。
また、10月には東京工業大栄誉教授の大隅良典氏が「オートファジー」の仕組みの解明で、ノーベル生理学・医学賞の受賞が発表された。3年連続の日本人の受賞は、日本の基礎研究が世界的にも高く評価されていることの表れだろう。
一方で、今年のグローバルな政治の動きの中で注目されるのは次期米国大統領ドナルド・トランプ氏の動静だろう。昨年の大統領選挙で大方の予想を覆して勝利したトランプ氏が今月20日、大統領に就任する。政治経験のない同氏が、通商、外交政策で日本に対してどのような影響を与えるのか予断を許さない状況ともいえる。さらに、昨年6月に英国が国民投票でEUからの離脱を決議したものの、その動向も依然、混沌とする状況にある。グローバルな政情不安に、日本としてどう対処していくか、今年を占う上で重要な鍵を握る。
これら背景から2017年を「不確実性の時代」と表現する向きも少なくない。1977年に出版され当時の日本でベストセラーとなった経済学者ジョン・K・ガルブレイス氏の著書を引用した表現である。40年が経過した現在も、その言葉が当てはまる時代だということだろう。
翻って、医薬品関連業界に目を向けても、従来の延長線上では予見できない事象が起きている。抗癌剤「オプジーボ」に端を発した薬価制度の抜本改革の断行だ。
市場実勢価に基づく現行薬価改定のルールから逸脱した形で、オプジーボの薬価を2月から50%引き下げることが決まっている。さらに、政府が昨年末に示した薬価制度抜本改革に向けた基本方針では、全医薬品の薬価改定を毎年行うことが明記された。また、効能追加等による市場拡大に対応するため、保険収載の機会を活用して年4回薬価を見直す。このため通常改定のない年も大手医薬品卸などを対象に薬価調査を実施するというものだ。
これら制度を実施するには、製薬企業、医薬品卸、さらには薬局への実質的な負担増は避けられない。大義は、超高齢化時代における国民保険制度を維持し、国民負担の軽減につなげる点にあるのだろう。
ただ一方で、19年10月の消費税増税を控え、年金受給費引き下げや医療費自己負担増など、支出を削る施策が議論されているのも事実。日本の医薬品、医療分野においても不確実性は増してきている。今年こそは、そうした閉塞感を打ち破ることができる新たなイノベーションが芽吹くことを大いに期待したい。