スマホ活用し治験効率化
世界大手CROのPRAヘルスサイエンスは、治験管理システム「Mobile Health Platform」について、年内に初めて国内の治験に活用するため準備を進めている。スマホアプリ等を活用した効率的な治験の実施を支援するもので、治験参加に伴う被験者の負担を軽減するほか、質の向上にも役立つ。海外では、医療機関への通院を不要とする世界初の完全バーチャル治験も3月から始まるなど活用が進んでおり、国内でもその機能を段階的に役立ててもらいたい考えだ。
同システムは、スマホやタブレット端末、パソコン、被験者が装着するウェアラブルデバイス等を活用して効率的で質の高い治験の実施を支援するもの。様々な機能が搭載されており、治験の内容に応じて必要な機能を活用できる。
汎用性が高い機能の一つが、被験者のデータ収集を支援する機能だ。自覚症状や服薬状況、血圧測定値などを被験者に日々記録してもらう治験は多い。被験者はアプリ側から提示される通知に従うだけで受動的に、必要なデータを容易にアプリ上で記録できる。
ウェアラブルデバイスが測定した心拍数などのデータも本システムを介して直接収集できる。来院スケジュールや服薬など治験の重要なイベントを被験者に知らせる機能もある。
同意説明と署名を支援する機能も備えている。電子化した文書や動画を使って治験の説明を行い、電子的に参加の署名を得ることができる。機能の柔軟性は高く、紙媒体を使った従来の説明と併用できるのも強みだ。
このほか、被験者がチャットやテレビ電話を使って医師と連絡をとったり、看護師の在宅訪問を受けて医療機関への通院回数を減らす機能を装備。法規制など環境さえ整えば、通院をゼロにする完全バーチャル治験の実施が視野に入る。
システムの活用で被験者の負担は軽くなる。医療機関側にとっても、被験者に実施事項を遵守してもらうためのマンパワーやデータ転記作業等を削減できる。データ取得の漏れを抑えられ、治験の質が高まる。
同社日本法人の小川淳社長は「治験をもっと被験者に寄り添った身近なものにするためのツール。今はスマホで何でもできる時代だが、その基準から考えると治験は時代遅れになっており、参加のハードルは高い。壁を低くし、治療オプションの一つとして治験を検討してもらえる環境整備が必要になる」と話す。
他社も類似したシステムを保有しているが、PRAの場合、このシステムを持つ会社を数年前に買収して社内に取り込んだことが特徴だ。同社クリニカルチームマネジャーの吉沼一彦氏は「システムを効果的に治験に活用いただくためには、法規制なども踏まえ、実際の治験段階にどんな形でこれらの技術を組み込んでいくのかを、各治験に応じて考える必要がある」と強調。「蓄積した治験のノウハウとこれらの技術を同じ社内に持つことが当社の強み。その結果、技術の円滑な活用が可能になる」と語る。
海外では、既に同システムが実際の治験に活用されている。最も発展した姿として、被験者の通院を完全に不要にした世界初のバーチャル治験が今年3月から米国で始まった。
約2000人の慢性心不全患者を対象に既存薬の効能追加を狙った治験で、患者の主観的評価や毎日の歩数などを実薬投与群とプラセボ群で比較する。日本でも今後、このシステムを活用した初めての治験を年内に実施する計画だ。
PRAヘルスサイエンス(Mobile Health Platform)
https://japan.prahs.com/ja-jp/locations/japan/