インフルエンザや感染性胃腸炎など、感染症患者の発生動向調査は、結果の公表が医師の診察から10日ほど遅れてしまう。そのため、日常診療や予防のために情報を適切に活用しにくいのも事実。しかし、今後の新型インフルエンザ対策を考えると、迅速な情報の収集が非常に重要となる。そこで、リアルタイムに情報を収集する方法として、IT化が進んでいる調剤薬局の処方せん情報を利用しようとする試みが進んでいる。
院外処方せん情報を用いた感染症監視システムに着目したのは、国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官の大日(おおくさ)康史氏ら。医薬分業率は全国平均で50%を超え、調剤薬局はレセコン導入率が非常に高いことから、感染症発生動向調査の時間的な遅れを埋めるサーベイランスの情報源として、薬局を活用しようとの試みだ。
ASP型レセコンにおいて個人情報を参照せず、特定の薬効分類ごとの処方せん枚数を深夜に計算し、例年と比べて増えているか(その薬局の過去の状況と比べて増えているか)を比較する。有意に実際の処方せん枚数が予測を上回っている場合に、異常として探知する。さらに、地域での感染症の流行状況を把握するために、異常として探知された薬局の割合を示す。これらの作業を全自動化し、翌朝にホームページあるいはメールを通じて協力薬局、自治体、保健所等に情報を還元する。
同システムは昨年、EMシステムズと共同開発し、関西や北海道内の薬局で試験的運用を行ってきた。今年からは薬剤師会として協力する地域も増え、秋には約600薬局ほどが参加している。中には県の事業として位置づける地区もあり、順次全国的に拡大してきた。今後、さらに大都市圏の薬局が加わることで、「今年度に3000薬局を目指したい」(大日氏)とする。
7月に北海道で開かれた洞爺湖サミットでも、健康危機情報の収集手段として活用された。自動化方式の28薬局、手入力方式67薬局の計95薬局が約1カ月間参加した。薬局に導入しているレセコンはASP型でなくても、少し手間はかかるが、数字を数カ所入れるだけで対応できる。現在、他のレセコンメーカーと新たなシステム開発を交渉中というが、対応するレセコンが広がるとすると、今年度は厚生労働科学研究(3年計画)の2年目だが、最終年度に1万薬局という目標も可能になるとみられている。
こうした感染症情報の収集は、薬局だけでなく、医療機関でも電子カルテや、救急車搬送の記録などを利用している。しかし、電子カルテの導入率に比べ、薬局はレセコン導入率が非常に高く、新型インフルエンザ対策用のサーベイランスとして期待は大きい。
将来的には「医療機関や学校欠席などの情報を相互共有することで、より一層きめ細かい監視システムの展開も可能になる。できれば薬剤師会単位での、さらなる協力を」とする大日氏。薬局、レセコンメーカーが前向きに取り組み、大日氏の構想をぜひとも実現させたい。