昨年に問題が本格化した医療用医薬品の出荷停止や出荷調整による混乱は、今も収まっていない。その影響を最も強く受けているのが末端の患者であり、患者を支える病院や薬局などの薬剤師や医薬品卸の担当者だ。
全体の動きを眺めると、現場で矢面に立つ薬剤師らの切迫感と、行政や製薬企業の対応のスピード感には差がある印象を受ける。業界が一丸となって対処するためにも、関係者にはもっと現場の声に耳を傾けてもらいたい。
「医療用医薬品供給状況データベース」(DSJP)の運営者が3月に薬剤師らを対象に実施したアンケート調査に目を通すと、現場の苦悩が浮かび上がってくる。
薬局等の現場では、医薬品を確保するため、在庫管理業務に多大な時間を取られるようになった。「発注したものの欠品連絡を受ける作業や代替品を探す作業などに人手を取られる」「来局予測等を確認して医薬品を切らさないようにする精神的な負担が増えた」などの声が多い。
懸命に探しても代替品しか確保できない場合も少なくない。その時に薬剤師は、処方箋通りの薬を用意できないことを患者に詫び、代替薬への変更を打診したり、処方医に事情を伝え処方変更を依頼したりする。この業務にも多大な労力と時間が発生し、精神的なストレスを伴うという。
中には理解を得られない患者もいて、「薬局なのに薬がないなんてやる気がないのか」等のクレームを受けることもあるようだ。医師も同様で、「準備できないのは薬局の都合なのでどうにかして調達するようにとのお叱りを医師から受けた」との声もある。
患者や医師の理解を得にくいのは、社会全体に医薬品不足の状況が十分に知れ渡っていないことも一因だろう。現場だけに周知を押し付けるのは酷だ。製薬団体も協力するなどして社会の理解を高めることはできないだろうか。
患者のことを思って心を痛める薬剤師もいる。「毎回渡す薬の数や見た目が変わり、服薬間違いを引き起こしやすくなった」「先発品への変更で患者の負担額が増えてしまった」「毎回の変更で患者に迷惑をかけている」と心配する声が少なくない。
国は、薬局や薬剤師に対して、面で複数の医療機関の処方箋を幅広く応需し、かかりつけ機能を発揮するよう求めている。しかし、新規の面の処方箋では購入実績がないため薬を確保できず、患者に手間をかけさせないため、泣く泣く他の薬局を紹介せざるを得ないケースも頻発しているようだ。薬の確保や対応に時間を取られてしまい、本来の対人業務に費やせる時間がないという時代と逆行した状況が続いている。
現場には、苦悩の状況が業界全体に共有されていないのではないかとの懸念がある。行政や製薬企業も問題解決に取り組んでいるが、現場の状況を肌感覚で捉え直して対応を進めてもらいたい。