日本でIT、デジタル化が謳われて久しいが、先進諸外国に比べてデジタル普及速度は遅いと自他共に認めざるを得ない状態だろう。遅々としていた時に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の出現が追い打ちをかけた。ベースとなるデジタル化ができていなければDXは不可能である。
マイナンバーカード一つを取ってみても、総務省が発表した1日現在の対人口普及率は44.7%に過ぎない。人気タレントやプロ野球監督まで動員して新規取得でポイントが貰えるコマーシャルを放映したにも関わらずだ。30日からは、健康保険証として利用できる申し込み、公的年金口座登録の申し込み受付が始まる。未取得の国民がこれらをメリットと感じれば普及が進むのではないか。
デジタル化においてガラパゴスとまで揶揄される日本だが、デジタル技術力は決して引けを取ってはいない。情報通信研究機構は5月19日、世界で初めて標準外径4コア光ファイバーで毎秒1ペタビットを超える大容量伝送実験に成功したと発表した。
1ギガは10億、1テラは1兆であり、今回成功した送信速度1ペタビットは1000兆ビットだという。同機構は、毎秒1ペタビットは1秒間に8K放送の1000万チャンネル相当だと説明している。数字の桁が大きすぎて、実験成功の意義を理解するのが難しい。
薬業界でも、デジタル化の波は押し寄せている。臨床開発分野では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて業務形態は大きく変化した。医薬品等開発業務受託機関CROのCRAが行うモニタリング業務が、感染防止と効率化を求めたリモートモニタリング業務へと移行しつつある。
さらに、臨床試験に参加する被験者の医療機関への通院負担軽減、コロナ感染予防などを目的としたDCT(分散型臨床試験)への対応が加速している。
流通分野では、日本医薬品卸売業連合会が5月の通常総会で新たに「医薬流通産業形成・DX推進委員会」設置を決定した。医薬品卸という名称は長年使用されてきたが、社会の変化に付いていけなくなると判断したのだろう。
今回のコロナ禍で卸売業という業態の枠を超えて付加価値サービスを社会に提供した実績を背景として、単なる医薬品を販売する卸売業から脱却し、「国民の健康と医療の向上に欠かせない産業」(医薬流通産業)へのパラダイムシフトを目指すとしている。
薬卸連作成の広報用パンフレットには、医薬流通産業として経済社会のニーズに対応し、医療への貢献はもとより、経済社会の発展・国民生活の向上に寄与していくとの決意表明を掲載した。卸売業として黒子に徹していた時代は終わった。全ての産業が、激変する社会や制度へ迅速・最適に対応していくことは待ったなしである。