3月8日の「世界腎臓デー」を受け慢性腎臓病(CKD)の早期発見や治療の重要性を啓発するイベントが今月末まで各地で開かれている。
CKDという疾患概念が米国で提唱されてから約10年。国内では日本慢性腎臓病対策協議会が発足し、本格的な啓発活動が始まったのは2006年からで、一般の人にとってはまだなじみの薄い概念だ。医療従事者でも、CKDについて十分に理解している人は多くはないだろう。CKDは、尿蛋白などの所見や腎機能低下が3カ月以上続く状態を指す。細分化されていた各種腎疾患を、大きな枠組みでひとまとめに整理したものだ。CKDが進行すると最後は透析に移行してしまう。心血管疾患の発症リスクも高まる。これらを防ぐために早期発見と適切な治療が欠かせない。患者数は多く、医療従事者が幅広くCKDについて理解し、適切な治療を実践する必要がある。
薬剤師の立場からは、主に三つの視点からCKD患者への関わりが求められる。
一つは、腎機能の悪化防止だ。専門外の医師が、非ステロイド性抗炎症薬など腎障害を引き起こす可能性がある薬剤を、患者の腎機能を考慮せず漫然と長期処方することは少なくないと聞く。その処方を是正したり、患者の腎機能を注意深くモニタリングしたりすることが必要だ。
もう一つは、副作用を防ぐ役割だ。腎機能が低下したCKD患者では、腎排泄型薬剤は体内に蓄積されやすくなり、副作用発現のリスクが高まる。特に、血糖降下剤やビクアナイド剤、フィブラート系高脂血症薬、抗ウイルス薬のアシクロビルなど重大な副作用を持つ腎排泄型薬剤では注意が必要だ。腎機能に応じて投与量を減らしたり、投与間隔を空けたり、薬剤を変更したりするよう医師に提案する役割が求められる。
三つ目は服薬指導だ。腎機能の低下には自覚症状がない。腎機能の低下が続くとどんな病態を招くのか、何の目的で薬を服用するのか、CKD患者が理解できるように説明することが欠かせない。
こうした役割は、病院薬剤師はもちろんのこと、薬局薬剤師でも重要だ。その一環として近年「CKDシール」の活用が始まった。熊本県では県内4病院の薬剤師が、退院するCKD患者のお薬手帳の表紙に「CKDシール」を貼って薬局薬剤師に注意を喚起する取り組みを、2年前から続けている。滋賀県でも今月1日から、医師が診察時にCKDシールをお薬手帳の表紙に貼る取り組みが、県内9病院で始まった。
また、今年1月には日本腎と薬剤研究会を前身とする「日本腎臓病薬物療法学会」が発足。関連学会と連携して「腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師」制度を新設した。
患者のQOL向上に加え、医療費抑制の意味からもCKD患者への関与は重要だ。積極的に介入し薬剤師の有用性を社会に示してほしい。