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「時間治療」発展の後押しを

2012年10月12日 (金)

 生体のリズムに合わせて投薬のタイミングを設定する「時間治療」が社会的に注目を集めている。

 4月に放送され、時間治療の動向を紹介したクローズアップ現代などNHKのテレビ番組は大きな反響を呼んだ。その後、週刊誌でも時間治療についてページが割かれ、本紙も今月、時間治療をテーマにした特集号を発行した。近く、時間治療を網羅的に取り上げた書籍が医薬系出版社から出版される予定だ。

 NHKの放送では、時間治療の概念を取り入れて抗癌剤を夜間に投与することによって、手術不可能な大きさの癌を小さくし、手術で取り除くことができた国内の症例が紹介された。時間治療によって癌を治せる場合があると聞けば、一般市民の関心はおのずと高まっていくだろう。

 一方、薬系学会の学術大会では毎年のように時間治療をテーマにしたシンポジウムが組まれているが、医療従事者や薬剤師は時間治療への関心と知識をどれくらい持っているのか。一般市民と医療従事者の意識にギャップは生じていないだろうか。

 生理機能や病気の症状発現にはリズムがある。ヒトでは一般的に交感神経の活動は昼間に高まり、夜間は副交感神経の活動が高まる。それによって様々な生理機能のリズムが生み出される。同様に、気管支喘息の発作症状が夜間に増加したり、早朝に血圧が上昇したりするなど、病気の症状発現にもリズムが生じる。

 時間治療とは、症状が発現する時間帯に合わせて薬を投与するなどの方法によって、薬の効果を高め、副作用の発現を減らす戦略だ。現状でも気管支喘息、高血圧、消化性潰瘍、高脂血症などいくつかの疾患の薬物治療に時間治療の概念が応用されている。

 他の疾患にも時間治療を応用しようと、世界中で様々な基礎研究や臨床研究が行われている。注目されるのが癌の時間治療だ。例えば、DNA合成を阻害する抗癌剤の投与時刻を、正常細胞がDNA合成を行わない夜間に変更すると、副作用を減らし投与量を増やせる可能性がある。

 時間治療は、薬のポテンシャルを最大限に発揮させるための概念ともいえる。既存薬の中には、潜在的な力を秘めているものがいくつかあると思われる。ただ、その能力を引き出すべく製薬会社が積極的に動くとは考えづらい。医学・薬学領域の研究者や医療従事者の主導が望まれる。

 その一例が、病院薬剤師の経験がある富山大学の藤秀人教授が取り組む研究だ。関節のこわばりや痛みなど、関節リウマチの症状は朝に集中することに着目。症状が発現する時間帯に効くようにメトトレキサートの投与時刻を変更すると効果が高まると考え、それを実証する臨床試験を医師と共同で実施している。

 時間治療の実践は、薬の適正使用の一環と捉えることもできる。現場の薬剤師は関心を持ち、時間治療の発展と普及を後押しすべきだ。



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