7日(日本時間8日)にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2020年の夏季五輪・パラリンピック開催都市が「東京」に決定し、日本中が歓喜に沸いた。東京五輪開催に伴う経済波及効果は、東京都で1兆6700億円、その他の地域で1兆2900億円、雇用面の波及効果は7500億円と試算されており、「アベノミクス第4の矢」とも称され始めている。
産業別の経済効果では、土木・建設、不動産などのインフラ整備関係や、観光、運輸が主となると思われるが、わが国の景気が上昇気流に乗るのは薬業界にとっても歓迎すべきことだ。
一方、薬剤師にとってはどのような影響が考えられるか。五輪開催期間中の選手または観客を対象とした救護所への参画が必要不可欠となるのは言うまでもない。加えて、スポーツファーマシストの職能がより注目されるようになるだろう。
IOC総会における東京のプレゼンテーションは他都市に比べて、その完成度が頭一つ抜けていたと言われている。その中で、竹田恒和JOC会長が、「日本のドーピング防止活動は、外国に比べて素晴らしい」と強調したことを、東京招致成功の大きな勝因の一つに指摘する声も少なくない。
竹田会長から、「スポーツファーマシスト」の名称こそ明確に出なかったが、わが国の優れたドーピング防止活動を支える制度の一環にスポーツファーマシストを挙げても間違いではないだろう。
スポーツファーマシストは、日本アンチドーピング機構(JADA)が10年4月から毎年認定を行っている世界初の制度で現在、5300人を数える。その活動内容は、競技者などへの正しい薬の使い方の指導や、ドーピング防止の普及・啓発などを目的とする。
ドーピングは「競技に勝つための薬物使用」と定義されている、ずるくて危険な行為だ。検査対象は、麻薬や覚せい剤、興奮剤はもちろん、1976年のモントリオール五輪から筋肉増強剤、00年シドニー五輪からエリスロポエチンが追加された。
だが、治療で使っていた薬剤が適切な手続きをしなかったため、あるいは治療のための薬剤をうっかり服用してしまったため「陽性」になってしまう事例も珍しくない。認識不足による「うっかりドーピング」からアスリートを守るのもスポーツファーマシストの重要な役割だ。
では、どのようにしてスポーツファーマシストとしての活動の場を広げていけばよいのか。様々なスポーツ団体に参画しての職能アピールが不可欠になるだろう。さらに、文部科学省、JADA、日本体育協会、各都道府県の体育協会などとの連携を強化し、実際にどのような活動ができるか模索していくことも重要だ。
東京五輪でスポーツファーマシストへの期待が高まる中、社会的に薬剤師職能をアピールするチャンスとして生かしてほしい。