既存薬から別適応探索‐“温故知新”創薬を本格化
LTTバイオファーマは、既存薬の新しい薬理効果を発見し、別の適応症で開発する「ドラッグリポジショニング」(DR)を推進する。既存薬1300種を網羅したライブラリーを独自に開発し、他大学に無償で提供して共同開発を進め、複数の品目が臨床試験入り間近だ。慶應大学薬学部教授で同社会長を務める水島徹氏は、「副作用による臨床試験の失敗リスクが低く、既にあるデータを活用できるので、“早く、安く”開発を進められる」と話す。
新薬開発をめぐっては、下がり続ける成功率、膨大な開発コストなどの課題が指摘されているが、その対応策の一つとしてDRが注目されている。多くの疾患の根本的な原因が共通していることが分かってきており、そこに既存薬が持つ未知の薬理作用を解明することで、別の疾患にも応用できるとの発想だ。国内でも武田薬品がユニットを立ち上げ、DR研究に着手した。
早期収益化が喫緊の課題であるベンチャー企業にとっては、通常の創薬手法に比べ、承認まで早くたどり着け、負担が少ないDRは最適なアプローチといえる。既存のデータを使えるため、非臨床段階では薬効薬理試験での評価だけで事足りるという。
研究成果が出始めている。慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬では、消化器疾患治療薬として40年以上使用実績のある「メペンゾラート」の可能性を見出し、COPD動物モデルを用いた薬効薬理試験でステロイドよりも高い抗炎症効果、気管支拡張効果を示した。ドライアイ症候群でも、角膜上皮細胞で高浸透圧ストレス依存細胞傷害を抑制する薬剤について、654個の既存薬から探索したところ、NSAIDのジクロフェナクを突き止めた。早期に臨床入りを果たす予定だ。
既存薬を用いて疾患の発症機構も解明する。「ドラッグリプロファイリング」。水島氏が“温故知新創薬”と呼ぶこの手法は、NSAID「セルベックス」がアルツハイマー病(AD)を抑えるとの疫学データに着目し、セルベックスが熱ショック蛋白質(HSP)を増やす作用メカニズムを解明。HSPを増やすことでADの進行を抑制することを突き止めた。セルベックスの化学構造を修飾し、最適化に成功している。
LTTの強みは、“アカデミアとの距離の近さ”にある。水島氏は、LTTの会長でありながら、慶大教授の立場にあり、アカデミアの基礎研究成果から実用化まで円滑な橋渡しを行える。
既存薬ライブラリーを他大学に無償提供し、連携を通じて多様なスクリーニング技術を活用することができるため、より薬効の高い既存薬探索が可能になる。また、臨床医との接点も多く、「こういう疾患に効く既存薬が欲しい」との依頼から、対象薬剤を絞り込み、すぐに臨床研究を始められるスピード感、ネットワークも武器だ。
今後、DRの開発候補品目が年3~4件のペースで新たに追加する見通し。直近の数年間は、黒字を継続しており、中国関連会社「北京泰徳製薬」を活用しながら、さらなる飛躍を目指す。
LTTバイオファーマ
http://www.ltt.co.jp/
この記事は、「薬事日報」本紙および「薬事日報 電子版」の2014年10月15日号に掲載された記事です。
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