現在、8割以上が中国からの輸入に依存している漢方原料生薬。近年、その購入価格の高騰が関係方面で言われてきたが、このほど日本漢方生薬製剤協会(日漢協)が会員社を対象に実施した調査で、2006年からの8年間で原料生薬価格が2.4倍と倍以上に高騰している現状が示された。このことからも、原料生薬の品質確保と安定確保の推進が、より一層、喫緊な課題であることが改めて確認できた。
一方で、原料生薬の輸入価格の高騰を受けて、以前から指摘されてきた生薬薬価の逆ザヤ問題も、煎じ薬を取り扱う医療機関や薬局などで大きな懸念事項として関係学会などでも取り沙汰されていた。漢方の煎じ薬は、漢方の古典に則った使用方法だが、エキス剤とは異なり、その調合にも手間がかかる。
生薬価格の高騰が直接の要因かどうかは知る由もないが、先月富山市で開かれた第66回日本東洋医学会学術総会の生薬原料委員会の報告でも、煎じ用生薬の数量調査で10年度から12年度にかけて総量で15%減少していることが示された。煎じ生薬の数量調査は初めてものだが、その規模自体が国内で縮小している現状が映し出された。
原料生薬の安定確保に向けては、13年に厚生労働省、農林水産省、日漢協の3者主催による農家と漢方薬メーカーをマッチングする「薬用作物の産地化に向けたブロック会議」がスタート。マッチングの意味では成果も上がりつつある。しかし、漢方薬の原料として求められる品質基準に合致した栽培技術の確立が、まずは大きな課題としてある。さらにあるのが薬価のギャップだ。
日本での生薬栽培にかかるトータルコストを考慮すると、原料生薬が高騰しているとはいえ、現状でも輸入生薬原料のほうが安価なことは間違いない。農家側も限られた出口の状態だけでは生薬栽培に意欲を注ぎ込むことは難しい。単純に国内生薬栽培の振興だけで解決できない種々の問題も孕んでいる。
13年「薬事工業生産動態統計年報」によると、医療用医薬品生産金額は6兆1940億円で、このうち医療用の漢方製剤は1301億円、さらに医療用生薬は約27億円市場とされている。漢方製剤、生薬を合わせても医療用医薬品生産金額の3%にも満たない市場。その半面、漢方薬自体は、8割以上の医師が処方を経験。エビデンスの解明や新たな治療効果の可能性もあり、漢方治療は臨床現場においても欠かせない存在になりつつある。
医療費抑制政策の狭間で、いく度となく薬価外しも言われた漢方薬だが、医薬品全体で見れば、わずかな市場に過ぎない。それだけに費用対効果の意味では大きく医療に貢献しているといっても過言ではない。その意味では、価格高騰に伴う薬価の逆ザヤ現象により、漢方薬の使用が減少しているとすれば、日本の医療業界にとっても大きな損失だ。
今一度、国を挙げて日本の伝統である漢方薬を見直す時期に来ている。