筆舌に尽くしがたい悲惨な事件が起きてしまった。バングラデシュの首都ダッカでのテロだ。無残に殺害された無辜の民間人7人は5日朝、無言の帰国となり、別便で負傷者1人も到着した。今回のテロ事件は、崇高な意志による支援活動と自身の安全確保について大きな問題を提起することになった。
4日には国際協力機構(JICA)の北岡伸一理事長が、「バングラデシュの発展のために尽力してこられた方々が、このような事件にあわれたことは誠に痛恨の極みであり、テロを行った犯人に怒りを禁じ得ない」とコメントしている。同時に、「今後も安全第一に、現地状況をしっかり把握しつつ、安全の確保に最大限努めていく。そして、バングラデシュの発展に引き続き貢献していきたい」と事業継続への強い意欲も表明した。
日本とバングラデシュとの関係は、バングラデシュが1971年に独立した直後に始まり、これまでODAで積極的にインフラ整備などを行ってきた。事件に先立つ6月29日には、過去最大規模の円借款(1735億3800万円上限)貸付契約が締結されたばかりであった。
テレビでも紹介されているが、日本の円借款による支援で完成したジャムナ多目的橋は、100タカ紙幣や5タカ硬貨にも描かれている。最近では紙幣自体を日本の造幣局で印刷しているという。他国の紙幣製造は戦後初のようだ。
また、JICAは保健分野の協力として、保健システム強化、母子保健の向上、感染症対策を3本柱に取り組んでいる。報告書にはバングラデシュ母性保護サービス強化プロジェクトによって、受療した妊産褥婦は4年間で17.8%から57.4%まで改善された事例が記されている。インフラも必要だが、国家の将来を見据えれば母子の健康の方が大事だろう。
余談の域だが、国旗を見ても日章旗をモチーフにしていることは明らかで、親日国として知られるパラオと同じようなデザインになっている。
日本国内に目を転じれば、大地震と津波、台風や大雨など自然災害に事欠かない。そんな日本において一旦被災すれば、全国各地から救援隊が駆けつける。先の熊本地震でも、5年前の東日本大震災の教訓を踏まえた各種の支援活動が展開された。本紙でも紹介しているモバイルファーマシーもその一つである。実際の現場では、余震がなかなか終息しなかったことから、常に身の危険を感じながらの作業だったことは、想像に難くない。危険を承知で現場に赴く意志と行動力には、ひたすら頭を垂れるしかない。
多くの医療関係者も、国際貢献のため世界中の発展途上国で活躍している。国内外とも、支援活動と自分の安全確保を両立する難しさに直面している。嫌な時代になってしまったが、今こそ知恵と強力な行動力が求められる。