平成の時代も残すところ約1カ月となった。本紙では、IQVIAの国内医療用医薬品市場の売上高データから、平成を代表するヒット製品群を5年ごとに振り返っているが、改めて一世風靡した新薬の多さに日本の「ものづくり」の歴史を実感させられる。
昭和の医薬品市場は、ビタミン剤から抗生物質の時代といった傾向を映し出していたが、平成の医薬品市場は一言で言えば、大きく生活習慣病の時代と括ることができるだろう。2010年代後半を除けば、トップ製品は高脂血症治療剤「メバロチン」と降圧剤「ブロプレス」が占めた。生活習慣病治療剤の開発は激しい競合となり、特に最終段階の第III相試験は、膨大な患者数を必要とする大規模なものとなるため企業の体力を必要とした。
しかし、臨床研究データの改ざんにつながった「ディオバン事件」に象徴されるように、過度な販売競争が不正の要因となり、その功罪が問われる時代であったとも考えられる。現在、政府は増え続ける医療費を抑えようと躍起になっており、予防へのシフトを進める方針を打ち出す。これから生活習慣病は極力、薬に頼らず運動や食事で予防していく流れに変わることは確実だ。
新薬環境も大きな変化を遂げ、バイオ医薬品へのシフトはもちろん、ここ数年間で市場を席巻しているのは100%近い治癒率を実現するC型肝炎治療剤、癌の免疫療法という新たな治療分野を開拓した免疫チェックポイント阻害剤など、これまでの治療法を根底から変えるような画期的な新薬だ。まさに時代の転換点であることが感じられる。
改元後、国内医薬品市場はどのように変貌していくのだろうか。バイオ医薬品時代の中にあって低分子の画期的なC型肝炎治療薬が登場したように、難易度が高まっているとはいえ、まだ創薬の可能性は十分ある。最近は核酸医薬品、ペプチド医薬品など日本が得意と言われる中分子医薬品のほか、細胞治療薬、遺伝子治療薬とターゲットが多様化している。
難病や希少疾病の新薬開発が活発化している中、根治に最も近いと言われているのがHIV感染症だ。また、世界的な課題となっている認知症の克服も大きなチャレンジとなる。先週、バイオジェンとエーザイが抗アミロイドβ抗体「アデュカヌマブ」の開発を中止するという衝撃的な発表があった。抗アミロイドβ抗体の相次ぐ第III相試験での開発中止により、これまでアルツハイマー病の原因として有力だったアミロイドβ仮説そのものへの議論も活性化してくるかもしれない。
様々な病気の原因となる病態の理解は簡単ではないが、かつて不可能とされた病気が克服されてきたのも歴史の事実だ。新元号の時代にどんな疾患の病態理解が進み、画期的な新薬が世に送り出されてくるのか注目したい。