新型コロナウイルス感染症が国内でも急速な広がりを見せている。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の検疫で新型コロナウイルス検査で陽性となった人を含め、国内で600人以上の感染者が発生しており、さらに感染者が相次いで全国各地で報告されるなど増え続けている。
政府の専門家会議では、新型コロナウイルスの国内感染は「発生早期」との認識が示され、医療機関受診の目安を公表したり、検査体制の拡充を行うとしているが、国民がマスクや消毒薬の購入に殺到するなど疑心暗鬼は広がる一方である。
加藤勝信厚生労働相は国民に対して、咳エチケットや手洗いなどの感染症対策の実施や、かぜ症状があれば会社や学校を休んで自宅療養することを呼びかけている。不要不急の外出や人混みを避けることや時差出勤も要請しているが、ここまで国民の不安が広がっている以上、適切な行動につながるか不明な部分も多い。
既に天皇誕生日の一般参賀が中止になり、東京マラソンは一般参加が取りやめとなるなど各方面に大きな影響が出ており、薬業界でも各種イベントや研修会などの中止が相次いでいる。今後さらに感染者の拡大に伴い甚大な影響が懸念される。
一方で、注目されるのがインフルエンザ患者数の少なさである。14日に公表された今月3~9日のインフルエンザの定点当たり報告数は9.04と前週から患者数が激減し、昨シーズンの約3分の1程度と低い水準になった。
振り返ると、昨シーズンはインフルエンザが大流行し、同時期の19年第4週には過去最多を記録。患者数はわずか1週間で働き盛りの約45万人がインフルエンザウイルスに感染していたが、今シーズンの直近では合わせて約5万5000人と約8分の1にとどまっている。
当時も厚労省はマスクの着用、外出後の手洗いなどの徹底を呼びかけていた。これは現在の新型コロナウイルス感染症対策に関する呼びかけと同じ内容である。
つまり、新型コロナウイルス感染症への警戒が広がったことでマスク着用や手洗いの徹底などの感染症対策が広く行われた結果、インフルエンザの劇的な減少につながった可能性が高い。
基本的な感染症対策がインフルエンザに効果があって、新型コロナウイルス感染症に効果がないということはないはずである。もちろん、未知のウイルスであるため変異などの不測の事態に十分な警戒が必要になるが、現時点ではこのまま基本的な感染症対策を続けることが重要ということになるのではないか。
パニックになると買い占めが起こるのは無理もなく、いま薬業界に求められているのは必要な人にマスクや消毒薬を行き渡らせることだろう。しかし、医薬品や医療材料の安定供給という役割を果たすと同時に、合わせて基本的な感染症対策の啓蒙を行うことで、より予防に高い効果が得られるはずである。