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再び動き出す製薬業界の買収劇

2020年10月16日 (金)

 米ギリアド・サイエンシズが9月、約2兆円で米イミュノメディクスを、米ブリストル・マイヤーズスクイブが今月に入り、約1兆4000億円で米マイオカーディアを買収すると発表した。新型コロナウイルス感染症の影響で失速していた製薬業界のM&Aが勢いづく可能性がある。

 昨年は、主力品の特許切れ対応やバイオ医薬品の研究開発費捻出を目的に、世界規模で巨額買収劇が繰り広げられ、今年もこうした状況が続くことが予想されていた。

 しかし、9月まで1兆円を超える案件は出てきていなかった。新型コロナウイルス感染症治療薬の臨床試験で良好な成績が出始め、ワクチン開発も治験の最終段階に入り、潮目が変わってきたのかもしれない。

 ギリアドは、新型コロナウイルス感染症治療薬「レムデシビル」の開発企業で、米国では緊急使用許可、日本・欧州では条件付きだが承認を取得し、癌領域では今年に入ってイミュノメディクスを含む2社を獲得するなど、コロナ対応と同時に買収戦略も進めてきた。BMSは、昨年に約8兆円でセルジーンを傘下に収めたばかりだが、心臓疾患に強い企業に食指を動かした。世界トップ企業を目指した両社の動向は、競合企業にプレッシャーを与え、新型コロナウイルス感染症で休戦中だった買収合戦の号砲が再び鳴らされるだろう。

 これに対して日本企業では、武田薬品のOTC医薬品事業売却や日医工の武田テバの後発品事業譲受にとどまり、1000億円以上の買収案件は出てきていない。製品導入が主体でアステラス製薬が米オーデンテス、大日本住友製薬が英ロイバント、旭化成が米ベロキシス・ファーマシューティカルズを手中にした昨年とは対照的だ。日本の製薬企業が、世界から遅れを取ってしまうことにつながりかねない。

 新型コロナウイルスの感染拡大が企業の投資判断を鈍らせ、買収に動けなかった側面はある。感染防止のため、医療機関の臨床試験受け入れ体制が整わずに医薬品開発がストップし、開発スケジュールに影響が生じた。

 患者の受診控えなどで売上が減少する可能性に加え、海外への渡航禁止や直接対面での面会が制限され、M&Aを実施する際に買収先企業を評価する買収監査にも限界があったとの指摘もある。

 事業リスクを取れる環境になかったのは理解できるが、さらなる成長を目指すには、悠長に構えている時間は残されていない。世界の医薬品企業の平均成長率が6~7%である。平均成長率を達成するためには思い切った買収や製品導入が必要だ。

 既にウィズコロナからポストコロナを見据えた動きが始まっており、世界の製薬企業が一斉に動き出してくる。壮絶な戦いを制するためには、質の高い意思決定を素早く行える体制がますます求められるだろう。



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