12月3~5日 福岡国際会議場とウェブで開催
第41回日本臨床薬理学会学術総会が12月3~5日の3日間、福岡国際会議場とウェブ上で開かれる。「臨床薬理学に立脚した創薬育薬グローバル連携」をメインテーマに、創薬や育薬の推進に向けて多職種や産学官の連携を深める機会として、様々なプログラムが編成された。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今回は現地とウェブを併用した開催形態が採用されており、多くの関係者に参加してもらいたい考えだ。学術総会長を務める大戸茂弘氏(九州大学大学院薬学研究院薬剤学教授)にテーマに込めた思いや学術総会の見どころなどを聞いた。
開催形態は会員の意向尊重
――現地とウェブを併用した開催を決断した背景や経緯を教えてください。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、9月に現地とウェブでの併催を決定しました。2~3月頃から学術総会の開催をどうすべきか、話し合ってきました。協賛企業や発表者の動向など様々な要因を踏まえ日々の判断を積み重ねて、この形での開催に決まったのが実情です。
大きく分けて選択肢は、開催、中止、延期の三つしかありません。基本的な考え方として、数年後まで開催予定地が決まっていることを考えると、延期した場合には次回以降の学術総会担当者に迷惑がかかるため、延期という選択肢はあり得ないと思いました。
そうなると、開催か中止かということですが、学術総会は、医薬品の開発や創出に関わる関係者が一堂に会して情報を得たり、意見交換する場として、新型コロナウイルス感染症のワクチンや新薬の開発にも貢献できます。こうした社会的な意義を考えると中止はできないと判断しました。
残る選択肢は開催になりますが、開く場合でも、現地開催のみ、ウェブ開催のみ、現地とウェブの併用という三つの方法がありました。
このうち、現地のみの開催は社会情勢を踏まえ難しいと考えました。学会参加に制限を設けている医療機関は少なくないですし、緊急事態宣言や休業要請が再び発出される可能性がないわけではありません。
感染リスクを考えるとウェブだけでの開催がベストで、開催費用も抑えられます。しかし、会員や企業に意向を聞くと、現地で開催されるなら演題登録や協賛を考えたいとのことでした。こうした意向も踏まえ、皆さんが参加しやすいのはやはり現地とウェブの併催だと判断して決めました。
――具体的にどのような開催形態になるのでしょうか。
特別講演や教育講演、各種シンポジウム等は、現地開催の模様をウェブ上でライブ配信します。ウェブでの聴講は会期中のみで、後日聴講可能なオンデマンド配信は行いません。シンポジウム等の発表者は、現地で講演、遠隔地からリモートで講演、事前に収録した講演の放映という三つのうちどれかの形態で発表を行います。
今回の一般演題は、口頭発表はなくポスター発表のみとしました。これは当初から計画していたことで、口頭発表では十分な討議時間を確保できないとの考えから、そのようにしました。例年通り現地でポスター発表を閲覧できるほか、ウェブ上でもポスターを閲覧できます。現地の場合、発表者がいれば意見交換できますが、ウェブの場合には発表者とは電子メール等で連絡をとってもらう形になります。
――メインテーマ「臨床薬理学に立脚した創薬育薬グローバル連携」にはどんな思いを込めたのでしょうか。
これまでの臨床薬理学会の歴史を振り返ってみると、1980年代以降、合理的薬物治療と臨床試験に関するサイエンスベースで発展してきました。
一方、90年代に入るとGCPなどの法規制が発展し、その枠組みに沿って、臨床試験や薬効評価等を行って薬の創出を加速させる動きも進んできました。現在は、これらの連携でイノベーションを起こす時代になっていると思います。
また、創薬と育薬を橋渡しすることも重要で、連携も進める必要があります。さらに、医薬品の開発や適正使用には、業種や職種間の連携も重要です。
これら様々な意味での連携を考える機会にしたいと考え、メインテーマを設定しました。
8会場全てにテーマ設定
――プログラム編成の特徴や工夫を教えてください。
特別講演や教育講演、各種シンポジウムなどを合わせると約60企画になります。ポスター会場を除き8会場を用意していますが、どの会場で何をやっているのか、参加者が理解しやすいように、各会場にテーマを設けて同じ領域のセッションは同じ会場に集めるようにしました。
例えば、第1会場には3日間通して、特別講演や特別企画シンポジウム、臨床薬理研究振興財団賞受賞講演など、メインとなる企画を並べました。これは一般的によくある手法かと思いますが、そのようなことを他の会場でも行いました。
第2会場には、専門医制度や認定薬剤師制度、学術委員会が企画するシンポジウムなど学会の根幹をなす企画を揃えました。第3会場には、多くの参加者が関係する臨床試験や医薬品開発をテーマとしたシンポジウムや教育講演を集めました。
第4会場は各種疾患の治療や薬物療法の適正化、第5会場は多職種連携や地域連携、医薬工連携など、連携をテーマに据えました。
第6会場、第7会場はサイエンスや研究をテーマにしました。毎年、日本薬理学会と日本臨床薬理学会の共催シンポジウムを一つ組んでいますが、今回は春の日本薬理学会年会が中止になったこともあって共催シンポジウムを二つに増やし、第6会場で初日の午前と午後に開くことにしました。第7会場は薬物動態や薬力学、バイオマーカーなどの話題が中心になります。
第8会場ではレギュラトリーや倫理、CRCや看護、医薬品開発への患者参画など、治験に関する話題を総合的に取り上げます。
――今回は特に連携をテーマにした企画が多いように思います。
私の思いもあって、意図的にそのようにしました。地元の多くの医療従事者に参加してもらい、学術総会を機に、医師と薬剤師など多職種間でストレートに意見を交わしてもらいたいと考えています。多職種連携や地域連携をテーマにしたシンポジウムは、薬剤師だけでなく医師ら多職種が講演するというスタイルで構成されています。日本臨床薬理学会は薬剤師のほか医師や看護師など幅広い職種が参加する学会です。その特徴を生かしたプログラム編成を心がけました。
他にも、オーガナイザーを企業の研究者が務めたり、医薬品医療機器総合機構や行政の関係者が座長を担当するシンポジウムも多いのではないかと思います。
様々な業種間や職種間で連携を深める機会になればと期待しています。
目玉は三つの特別企画シンポ
――今回の目玉企画について見どころを教えてください。
三つの特別企画シンポジウムが今回の目玉企画になります。初日の午前中にある特別企画シンポジウム1は「日本の治験いまむかし」と題して、日本の治験や臨床試験のこれまでの歴史や歩みを振り返ると共に、未来を展望する企画としました。プログラムの最初にこうした企画があると、特に若い参加者にとっては、治験や臨床試験のサイエンスが構築された経緯を理解するいい機会になると思います。学術総会の開催は41回目になりますが、福岡での開催は今回が初めてです。第I相臨床試験の発祥地の一つは福岡であることも考慮して、治験を振り返る企画を設けたいと考えました。
2日目午後の特別企画シンポジウム2は、新型コロナウイルスの感染が広がっている状況を踏まえ、「Covid-19克服に向けて」をテーマに、治療薬開発の現状やワクチン開発の取り組み、治験環境について解説していただく場としました。
3日目の午前中には特別企画シンポジウム3「AMED-BINDSによるアカデミア創薬研究推進へ向けた取り組み」を設けました。新しい薬をどうやって創っていくかが日本の課題ですが、最先端のシーズ探索や創薬の取り組みが各研究者から示されます。
――各種シンポジウムの中からいくつか見どころを紹介してください。
8会場にそれぞれテーマを持たせたと言いましたが、そのことからも分かるように日本臨床薬理学会の対象領域は幅広く、多様性に富んでいます。ファーマコメトリクス、創薬のニューモダリティ、人工知能、ビッグデータなど近年注目を集めているテーマもあれば、合理的薬物治療、臨床試験、製剤学、薬物動態学、薬力学など以前からずっと取り組みが続いているテーマもあり、これらを網羅して各種シンポジウムが企画されています。
その中からいくつかを抜粋すると、シンポジウム16「かかりつけ医とかかりつけ薬剤師の連携による薬物治療の実践」など連携をテーマにした各種企画は聴講してもらいたいですし、法規制の変化という観点からはシンポジウム4「改正薬機法は臨床薬理に影響を及ぼしたか?」も要注目です。
個人的に興味があるのは、日本薬理学会との共催で開く学術委員会企画シンポジウム5「データ駆動型薬理学・臨床薬理学研究」です。医療現場のビッグデータを解析することで、より患者さんの役に立つ医薬品を創出できる可能性があります。その関連として、シンポジウム6「臨床薬理のリアルワールドエビデンス/リアルワールドデータ」も企画されています。
近年は、従来型の医薬品開発に加えて治療アプリの開発など新たな動きも進んでいますので、シンポジウム23「デジタルヘルスと臨床薬理学/治験・臨床研究」にも注目しています。
――特別講演の概要は。
特別講演2は、大分大学名誉教授の中野重行先生にお願いしました。コロナ禍に見舞われた今年は、それぞれの人が命について考える機会が多かったのではないかと思います。この時代背景を踏まえ、何か命をテーマに話してくださいと中野先生に依頼したところ、「こころ、からだ、いのちをめぐるニンゲン学」とのタイトルでご講演いただけることになりました。幅広い視野で命を語れる中野先生の講演を楽しみにしています。
特別講演1は、ノースウエスタン大学のジョセフ・バス先生に依頼しました。食事のタイミングに対するインスリン反応の概日調節について解説していただく予定です。医師の立場から生活習慣病治療に役立つ世界最先端の研究成果をご紹介いただきます。
事前参加申込者は昨年超え
――一般演題の動向や参加者数の見込みは。
一般演題はポスター発表のみで計248題です。
事前参加申込者数は今月上旬の時点で約1700人です。参加者は、現地とウェブのどちらでも参加できますので、当日の参加形態がどのような比率になるのかはまだ分かりません。当日の現地参加申込者数も数百人程度あるのではないかと期待していますが、新型コロナウイルス感染症の拡大状況に左右されますから、流動的です。昨年の大会に比べて事前参加申込者数は多く、ウェブ参加という形態ができたことで全体の参加者数が増える可能性はありますが、予測するのは難しく、結果を見守りたいと思います。
――最後に参加者へメッセージをお願いします。
感染リスクを低減するために、会場に自動検温器を設置したり、参加者には事前に問診票を提出してもらったりして、万全を期して開催します。ご参加の皆さんにも感染リスク低減にご協力いただければ幸いです。現地参加、ウェブ参加という選択肢がありますので、都合の良い方を選んでもらって、1人でも多くの方に参加してもらいたいと思います。
新型コロナウイルス感染症への対策に注目が集まる中、学術総会に参加して様々な情報を得たり、意見交換することで、ワクチンや新薬の開発を通じて社会に貢献できると期待しています。その認識を参加者で共有し、有意義な学術総会になればありがたいですね。