2021年が幕を開けたが、新型コロナウイルス感染拡大が収束する兆しは見えていない。昨春に続き、政府が1都3県に緊急事態宣言を発令する事態となった。新型コロナウイルス感染症との戦いは一進一退で長期戦の様相を見せているが、その封じ込めには治療薬やワクチンが頼みの綱となる。
富士フイルム富山化学が承認申請したインフルエンザ治療薬「アビガン」は、昨年12月末の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で継続審議が決まった。昨年承認される可能性もあったが、大きく遠のいた。
医療提供体制は逼迫しており、重症者の急増も報告されている。治療に使える薬剤は、重症患者を対象とした抗ウイルス薬「レムデシビル」と抗炎症薬「デキサメタゾン」の対症療法のみに限られる。重症者数を減らす意味合いから、非重篤な新型コロナウイルス感染症を適応とした薬剤を待ち望む声が多い中、今回の判断は有事の医薬品承認審査体制が不十分であるという日本の弱点が露わになった。
薬食審では、臨床試験データから有効性を明確に判断することが困難であることを継続審議の理由としたが、アビガンは日本人患者を対象とした第III相試験で主要評価項目を達成した最初の薬剤だ。治験を突破したアビガンには、条件付きであれば承認を得る資格を十分に有していた。
さらに新型コロナウイルスに対する効能追加であるため、画期的新薬とは違い、一定の安全性は確認できている。急性期医療の限定された施設、医師による厳重な管理下で使われるため、患者の適正使用も監視できる。
それだけに、承認判断を先送りにせず、▽治験実施施設に限定する▽承認後は全例対象の使用成績調査を行う▽投与対象患者を制限する▽追加の臨床試験データが出た段階で速やかに提出を求める――など、もっと柔軟な対応が可能だったのではないか。
通常の臨床試験は、アビガン投与群とプラセボ投与群を医師にも被験者にも知らせず投薬される二重盲検試験で実施される。今回の治験では、被験者のみ割り付けられた薬剤を知らせずに投薬して比較する単盲検試験での治験デザインであることが問題視された。
ただ、医薬品医療機器総合機構(PMDA)とは治験計画で事前に合意していたにも関わらず、事後的に疑義が呈され、継続審議となったことに違和感が残る。
レムデシビルは米国の緊急使用許可のもと、海外臨床試験結果のみで国内で販売できるようにする特例承認制度を適用した。海外で承認がない日本発医薬品は、通常の承認審査でしか運用されない。慎重な審査体制は必要だが、日本の当局には、緊急時は医療提供体制の状況も鑑みて、社会的に必要な薬には柔軟に承認を付与していく意識の変革を求めたい。