第54回日本薬剤師会学術大会
座長
日本薬剤師会常務理事
高松登
九州大学大学院薬学研究院准教授
島添隆雄
現代社会の複雑化に伴い、様々な問題が浮き彫りになってきている。われわれは進歩・進化に身を委ねる一方で、改めて原点に戻り、健康長寿のためにも古き良き時代を見直す必要がある。
健康の基本の一つに食がある。しかしながら、現代の農業や食生活の変化が、必ずしもすべて良い方向へ向かっているとは言えない。例えば、農薬、化学肥料などにより、安全な食が失われつつある。また、農業技術の進歩により、「旬」という文字が消え、野菜や果物などの栄養価も大幅に低下してきている。
さらに、日本の食が、食文化として世界に誇れる和食から欧米食へと変化し、高カロリー、高脂質の食事により、さまざまな疾患を誘発するようになってきた。これらのことが、日本は世界一の長寿国でありながら、健康寿命はほとんど延びていない要因となっている可能性も否定できない。
一方、生薬を構成成分とする漢方薬も、見直されるべき良き機会にきている。コロナ禍においても、漢方薬の効果、有用性が提唱されている。また、漢方薬の作用機序も科学的に証明されるようになってきた。漢方治療は、古来より食と直結していることもあり、本シンポジウムでその役割を再認識できると考える。
本分科会では、食および漢方のスペシャリストを招いた。まず、飯塚病院漢方診療科の田原英一部長に、和食と玄米採食による治療について紹介していただく。次に菌ちゃんふぁーむの吉田俊道氏より、菌ちゃんふぁーむでの無農薬有機野菜作りで体調が改善される経験を話していただく。
また、九州大学の比良松道一准教授には、「弁当塾」という大学における実践的な食育教育の意義について講演していただく。最後に、日本薬剤師会薬局製剤・漢方薬委員会の八木多佳子委員長から、薬局製剤を提供する際に併用された食養生について紹介していただく。
以上のように、各演者に幅広い角度から講演していただき、総合討論も行うことで、食および漢方の重要性への理解が深まり、極めて有意義な分科会となることが期待される。
(島添隆雄)