2026年度診療報酬改定―病棟薬剤業務実施加算1「300点」に注目
病棟薬剤業務実施加算1・2・3の点数構造と2026年度改定の全体像
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、病棟薬剤業務実施加算(以下、加算)の構造が整理され、点数が大幅に見直された。具体的な点数設計は以下の通りである。
加算1:週1回300点(新たな上位区分)
加算2:週1回120点(従来の加算1に相当)
加算3:1日につき100点(従来の加算2に相当)
今回の診療報酬改定によって、加算1または加算2を算定している患者について、さらに届出等の施設要件を満たした上で薬剤業務向上加算(週1回100点)を算定できれば、週1回400点(300点+100点)または週1回220点(120点+100点)を算定できることとなる。
このような増点と構造変化は、病棟薬剤師の業務を従来の体制評価にとどめず、政策課題(ポリファーマシー対策、施設間の薬剤情報連携、転院・退院時の服薬指導等)に資する介入実績を評価するメッセージと位置づけられる。
病棟薬剤業務実施加算300点、驚きの声と中小病院の格差是正期待
当初、厚労省側は病院薬剤師評価の見直しを「転院・転棟時の情報連携に対する評価を追加する」といった小幅な整理にとどめる方向だった。また、日本病院薬剤師会が求めていた「週20時間の業務時間要件の緩和」はハードルが高く、中医協(中央社会保険医療協議会)の議論の俎上に上がることはなかった。
しかし、2026年度改定では診療報酬本体が+3.09%(令和8・9年度の2年度平均)と大幅なプラス改定となり、病院に多くの財源が配分された。そこで日病薬からの要望に加え、医師会や病院団体からも病院薬剤師の評価充実に賛同する声が強かったことなどを背景に、形勢が一転し「病棟薬剤業務実施加算300点」が実現した。
その際、国が課題としている「ポリファーマシー対策」や「施設間の薬剤情報連携」、「転院・退院時の服薬指導」といった政策目標と結びつける形で、薬剤総合評価調整や退院時薬剤情報管理指導の実績に応じた上位評価区分(病棟薬剤業務実施加算1=週1回300点)が創設された。
厚労省「病棟薬剤業務実施加算の評価の見直し」から読み解く算定要件
点数表と施設基準を押さえる―専任配置・業務内容・算定回数の要点
算定の骨格は「加算1および加算2は週1回に限り」「加算3は1日につき」という頻度設計に整理されている。また、療養病棟入院基本料・精神病棟入院基本料・特定機能病院入院基本料(精神病棟に限る)を算定している患者については、入院した日から起算して8週間を限度とする制約が明記されている。
施設基準としては、病棟ごとの専任の薬剤師配置、薬剤関連業務に十分な時間の確保、医薬品情報の収集・伝達を行うための専用施設の保有、医薬品の安全性に係る重要情報を把握した際に速やかに必要な措置を講じる体制、薬剤管理指導料の施設基準に係る届出を行っていることなどが柱となる。点数だけでなく「算定単位(週・日)」「上限(8週間)」「施設基準」をセットで理解することが、算定可否の見落としを防ぐ近道である。
上位評価のカギ―薬剤総合評価調整・退院時薬剤情報管理指導との連動
加算1(週1回300点)は、薬剤総合評価調整加算や退院時薬剤情報管理指導料の算定実績が多い場合に評価される上位区分として整理された。背景として、ポリファーマシー対策や施設間の薬剤情報連携、転院・退院時の服薬指導等に資する薬学的介入の実績を適切に評価する、という基本的な考え方が示されている。
つまり、病棟での薬学的介入が院内で完結するだけでは足りず、退院後・転院先まで含めた情報連携とアウトカム志向が評価の中心に置かれた点が、加算2(週1回120点)との差分になる。
現場にとってのインパクト―病棟薬剤師の雇用・配置をどう変えるか
300点が生み出す人件費―病棟薬剤師1人を賄えるかの試算
実務では平均在院日数や病床稼働率が効いてくる。例えば、従来の週1回120点(加算2に相当)では「平均在院日数2週間、病床稼働率80%と仮定した場合、150床程度でようやく1人分となる」との問題提起があった。
一方、加算1が週1回300点になったことで、仮に薬剤師1人当たりの人件費を年700万円とした場合、「700万円÷12カ月÷4週÷3000円(300点)=約48.6人分」といった試算が提示され、病床稼働率50%の100床病院でも1人分の原資を創出できる計算となる。
回復期・地域包括ケア病棟で異なる「病棟薬剤業務」の戦略
病棟機能に応じて、評価につながりやすい業務に力点を置くことが有効になる。例えば、回復期リハビリテーション病院や地域包括ケア病院では、入院中に処方を整理し、退院後の薬物療法が途切れないよう連携実績を積むことで、調整加算の増点と合わせて病棟業務を展開できれば原資となる可能性がある。また、精神病棟や療養病棟などでは入院後8週間を限度とするため、対象患者の抽出と算定タイミングの管理が実務上のポイントになる。
保険者・患者からの視点と今後の展望
保険者・骨太方針が求める「薬剤師の役割」と病棟薬剤業務実施加算1
制度の“支払う側”の論理を押さえると、評価の方向性が立体的に見える。内閣府の「骨太方針2025」や、健保連など保険者等6団体が提出した「令和8年度診療報酬改定に関する要請」を背景に、医療提供体制の最適化やメリハリある改定を求める文脈がある。加算1は、ポリファーマシー対策や施設間の薬剤情報連携といった「医療の質の底上げ」に資する領域を評価対象として前面に出した点で、こうした文脈と接続しやすいと考えられる。
病棟薬剤業務実施加算1を起点とした病院薬剤師のキャリアと地域医療への波及
加算1の導入は、病棟薬剤師業務を「点数のための配置」から「介入と連携を前提とした業務設計」へ変える契機になる。実際、大病院と中小病院の格差是正や回復期・地域包括ケア病棟との偏在是正につながることが期待されている。病棟専任配置を起点に、薬剤総合評価調整や退院時指導の実績づくり、地域の薬局や他施設との情報連携を標準化できれば、地域包括ケアの中で病院薬剤部の存在感は増す可能性がある。
薬事日報で読む病棟薬剤業務実施加算1
病棟薬剤業務実施加算は、病棟での薬剤師業務を診療報酬で評価する枠組みです。薬事日報では、2023年に「届出が伸びない最大の理由は薬剤師数の確保」として中小病院での算定が論点になった経緯を報じました。
中小病院での算定が論点‐厚労省・安川薬剤管理官、病棟薬剤業務加算に言及(2023/07/21)
2025年には入院分科会で「診療報酬で人件費を確保できれば回復期や慢性期でも病棟業務を充実できる」と評価見直しが求められ、制度の“持続可能性”が焦点化します。
AI時代見据え病棟常駐拡大を(2025/10/31)
【中医協入院分科会】診療報酬で人件費確保を‐病棟加算の評価見直し訴え(2025/07/23)
2026年の改定議論では、ポリファーマシー対策や退院時薬剤情報管理指導料、薬剤総合評価調整加算の実績に応じた評価への見直しが示され、さらに上位区分として「週1回・300点」の新設が大きなトピックになりました。
【26年度診療報酬改定】「病棟加算300点」驚きの声‐中小病院の格差是正期待(2026/02/18)
【日病薬 武田会長】「上を目指す仕組み示された」‐病棟加算の見直しを評価(2026/02/09)
【厚労省】病棟業務実施加算見直しへ‐多剤対策など実績考慮(2026/01/14)
これから令和8年(2026年)6月の施行に向け、病棟業務の評価をめぐる動きもいよいよ具体化していきます。
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