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国民の利益損なう中間年改定

2025年01月08日 (水)

 2025年度中間年改定の骨格が決まった。内容を見ると、24年度改定で陽が差した製薬業界に暗雲が垂れ込めている。中間年改定では、国民にとっての課題でもある▽創薬力強化▽供給不安▽ドラッグラグ・ロスの解消――にいかに手を打つかが問われた。これに対し、業界、薬剤師会の主張は中間年改定の廃止または中止。本紙も廃止が妥当との考えだが、今年の参院選を念頭に置いた政局、省庁間の利害、世論動向を踏まえた施策の優先度から、廃止はできなくとも、中間年改定の原則に立ち返る必要性を訴えた。

 原則とは中間年改定の根拠の16年4大臣合意にある「価格乖離の大きな品目について薬価改定を行う」だが、今改定の骨格を固めた厚生労働相と財務相の大臣合意は、原則どころか4大臣合意から遠ざかっている。

 平均乖離率は5.2%と、中間年改定開始時から3ポイント近く圧縮された。そこで改定対象範囲の仕組みを改め、新薬創出等加算対象品目、後発品は1.0倍超、新薬創出等加算対象品目以外の新薬は0.75倍超、長期収載品0.5倍超と対象範囲に差を設けた。最低薬価の引き上げ、不採算再算定の臨時・特例適用も行う。改定対象品目割合は前改定の69%から53%に狭まった。

 課題への対策として工夫は読み取れるが、どこが「乖離の大きな品目」なのか。特許期間中新薬の55%、後発品の66%は薬価引き下げ。新たに実勢価と連動しない新薬創出等加算の累積額控除が実施される。大臣合意には今後の中間年改定で市場拡大再算定の実施も検討するとある。

 加えて、政府が「創薬支援基金(仮称)」の創設を検討していることが明るみになり、欧米製薬団体が強く反対した。スタートアップを支援するため、新薬創出等加算品を持つ企業に収益に応じ拠出を求める旨を厚労省は説明したという。

 累積額控除は中央社会保険医療協議会で常に議題とされ、同基金は昨年11月の政府総合経済対策からの流れを汲むが、唐突な印象を与え、事業と市場の予見性を欠いた。企業にとって予見性の低下はリスクであり、投資行動を躊躇させかねない。株主にも説明しにくい。欧米製薬団体は「誤った政策を撤回するまでの間、これらの取り組み(官民協議会を含む創薬力強化策)への参加を留保する」と発表した。リスクヘッジできないとの判断だろう。

 24年度改定、政府の創薬力強化方針、国内市場予測のプラス転化、製薬企業の投資意欲改善、そして税収の過去最高更新見通しと、明るさ灯る中での中間年改定。改定対象範囲に工夫はあったが、薬価引き下げによる実感不確かな国民負担軽減より、長期的視野から、引き下げずドラッグラグ・ロスや安定供給の対策を優先する場面ではなかったか。今改定は国民の利益を損なうのではないか。



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