先日、女優の吉永小百合さんが薬局薬剤師役で主演する映画「おとうと」を観てきた。実際のストーリーとは別に、薬局や薬剤師がどのように描かれているかにも注目した。薬局機能や薬剤師業務を必要以上に誇張する描写はなかったが、舞台となる街の中で生活する人々の中に自然と溶け込んでいる、昔ながらの薬局がうまく表現されていた。
翻って、昨年6月の改正薬事法施行に伴うOTC薬販売制度の改正、2010年度の調剤報酬改定に伴うジェネリック薬や在宅医療への対応など、薬局を取り巻く環境が目まぐるしく変化していく現状を見ると、映画にあるような「街の薬局」はどうなるのだろうとも感じた。
改正薬事法が施行された09年度、当初予測と大きく違っていたものの一つとしてOTC薬市場の低迷がある。新たな「登録販売者」の創設で、特に異業種からのOTC薬販売の参入障壁が緩和されたことでもあり、全体的なOTC薬市場の活性化につながるとの見方も一部にはあった。 一方で、OTC薬自体は、第1~3類薬にリスク分類され,販売方法から店内の設置場所まで、細かく省令で規定された。このことで、従来セルフ主体だったドラッグストアの店頭では、皮肉にも薬剤師による説明販売が必要な第1類薬を中心に、販売不振が続いているようだ。
OTC薬の不振の理由について、製・配・販の各関係者の多くは、「新販売制度という施策によるもの」と口を揃える。さらに、OTC薬の販売拡大には、さらなるスイッチOTC薬(第1類薬)の開発、上市が必要だとの見解もある。事実、第1類薬の販売不振を払拭しようと、日本チェーンドラッグストア協会では「第1類薬販売強化プロジェクト」として、マニュアル作成にまで取り組んでいる。
OTC薬の販売不振の一方で、有名俳優などを擁し、テレビCMを展開している通信販売による「健康食品」の実績は、好調に推移しているようだ。景気低迷の中で、減少傾向にはあるとはいえ、健康志向食品の市場は依然、約1兆1700億円(09年見込み:富士経済)と、OTC薬市場の約2倍の規模にある。
言い換えれば、本来あるべきOTC薬市場は、通販を中心とした健康食品市場に席巻されているといえるだろう。ある意味、現在のOTC薬については、製・配・販ともにその開発、マーケティング、店頭での販売手法を取り違えていたのではないかという気もする。
対面販売の煩わしさを顧客ニーズと受け取り、セルフ化を進めてきたドラッグストア。さらに第1類薬を「医療用からスイッチした切れ味鋭い医薬品」というフレーズだけで販売しようとするメーカー。そこには、生活者ニーズを汲み取り、店頭での対話を通じて、製品開発につなげていくというプロセスすらなかったのではないか。
昔ながらの薬局店頭では「薬の使用感」や「効き目」の話だけではない日常会話を通じて、薬剤師と顧客との間に、ある種の信頼関係ができていたはず。その中で、OTC薬も育まれてきたという歴史がある。
OTC薬の市場活性化が業界内で叫ばれているが、その方向に向かうには、店頭起点のOTC薬の開発はもちろんのこと、販売に従事する薬剤師等が、購入者と「人対人」として真摯に向き合うことが大事ではないか。医薬品販売とはそういうものではないかと思う。