今年、ギニアでの発症を契機にリベリアを中心に西アフリカに感染拡大を続けるエボラ出血熱は、世界中を震撼させている。
エボラ出血熱は、2日~最長21日間潜伏後、発熱、頭痛から、嘔吐、下痢、発疹の症状を経て、吐血、消化管からの出血を惹起し、死に至るケースもある。致死率は20~90%程度。
現在の感染者は1万5000人を超えており、死者は5000人以上を数え、その勢いはとどまるところを知らない。
では、治療方法が確立されていない現状において、どのような感染防止策が考えられるか。カナダやオーストラリアでは、西アフリカへの渡航を禁止しており、同地域からの帰国者は21日間隔離する水際作戦を徹底している。
わが国では、西アフリカ滞在者のカナダ国籍の男性や東京都内の日本人男性、ギニア国籍の女性が、入国時に発熱などの症状を訴え、大騒ぎになったのは記憶に新しい。
いずれもウイルスの遺伝子検査で陰性が確認され事なきを得たが、エボラ出血熱の国内上陸と拡大防止は最重要課題になっている。日本においてもカナダやオーストラリアのような強固な水際対策が不可欠となるだろう。
一方、エボラ出血熱の治療の現状はどうか。今のところ、完全に効果を上げているのは血清で、馬で作製した血清を使用する新しい治療方法が試みられている。
エボラ出血熱の治療薬では、富士フイルム子会社である富山化学が開発した「アビガン」が注目されている。同剤は、今月中旬からフランスとギニアとの共同でギニア患者60人の治験が開始され、12月末の治験結果解析を経て、来年1月下旬に承認を受ける見通しにある。
同治験には、WHOも関与しており、国際的な承認薬として世界に出荷する方向にある。
「アビガン」以外の治療薬では、「ZMapp」(マップ・バイオファーマシューティカル)、ワクチンの「VSV‐EBOV」(カナダ政府)、「CAd3」(GSK)などが有望視されており、その開発動向が注目される。新しい治療薬の円滑な開発には、国がその財源を出資する必要があるのは言うまでもない。
さらに、エボラ出血熱の拡大防止対策で忘れてはならないのが、医療従事者の安全だ。マスコミではほとんど報道されていないが、エボラ出血熱による死者の約10%が医療従事者で占められている。
エボラ出血熱は、少なくとも体液同士が触れ合うと感染することが判明している。だが、傷がなければ感染しないという保証はなく、手強いウイルスであることは間違いない。
したがって、医療従事者は、完全防備をして患者に接する以外に手立てはない。さらに、有用性は定かではないが、インフルエンザのタミフルのように、医療従事者へのアビガンの予防投与も考慮する必要があるだろう。
感染症の拡大により医療資源が磨り減ると、予防的処置はお手上げとなる。医療従事者の安全確保を第一に考えなければ、エボラ出血熱の封じ込めは不可能であると言っても過言ではない。