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国が主導する創薬戦略の行方は

2024年05月31日 (金)

 政府の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」が中間取りまとめを公表した。世界トップレベルの創薬国としての地位を確立し、医薬品産業を基幹産業に育てていくための基本的な方向性を定めたもので、「わが国が世界に肩を並べる創薬の地となることを目指すべき」と明記した。外資系メガファーマや米国系ベンチャーキャピタル等を日本に呼び込むため、官民協議会を設置して議論するとしている。しかし、具体的な姿はまだイメージしにくい。

 これまでも国家戦略としては、2002年に厚生労働省が「医薬品産業ビジョン」をまとめて以降、時代に応じて新医薬品産業ビジョン、医薬品産業強化総合戦略などと名前を変えつつ、改訂が加えられてきた。

 主に国際競争力や高い創薬力を持つ産業構造への転換、司令塔機能の確立といった問題意識が示されてきたが、今回は新規モダリティへの対応が遅れ、“ドラッグ・ロス”という新たな社会問題を生み出している状況での新たな国家戦略との位置づけだろう。

 国が創薬を強力に支援する方向性は望ましいものだ。世界最大の医薬品市場である米国でも、NIH(米国国立衛生研究所)を中心とした巨額の支援体制が日本との比較でたびたび話題に上ってきた。こうした反省などから、基礎研究から実用化への道筋をつなぐための司令塔役を担う日本医療研究開発機構(AMED)が設立された経緯がある。

 当時は「日本版NIH」とも言われ、AMEDの設立で研究開発が大きく動いたと評価する声も多いが、その予算感は米国と比べるまでもなく、日本のライフサイエンス研究支援の限界も指摘された。最近では組織体制にも国の審議会で疑問が呈される事態となっている。

 特に指摘されたのは専門家の若返りを求める声である。AMEDでは、プログラムディレクター(PD)が研究開発提案の評価や担当分野の専門的な調整を行っているが、委員からは「PDは現役を退いた人が多い。アップデートされた知識を持つ人がPDを務めるべき」「考え方が古く、自身の成功体験による評価で判断している。可能な限り現場の意見を聞き、研究者の意見を尊重してロジカルに評価すべき」と辛辣な声が上がっていた。

 新薬開発はグローバルで戦う生き馬の目を抜く世界だ。数年のブランクが致命傷になる可能性がある。今回の中間取りまとめも、外資を呼び込んで世界トップレベルの創薬国の地位を確立する方向性そのものには反対はないと思われる。

 これから立ち上がる官民協議会では、戦略目標をお題目に終わらせないためにも、新薬開発の最前線でグローバル競争に鎬を削っている現役の研究開発担当者らを招き、現状をしっかり見つめた目標達成への道筋を描いてもらいたい。



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